1.ティール組織とは
ティール組織とは「組織の構成員に存在目的が明確に意識され、自律性を持って進化していく組織」と簡略に定義できます。その詳細については以下の項目で説明していきます。
1-1.特徴
ティール組織(teal organization)という言葉の提唱者は、フレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)です。
ラルー氏はマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)出身のビジネスコンサルタントとして活躍しています。
著書「ティール組織(Reinventing Organizations)」(英治出版)では、紹介された12の組織に、新たな組織論の可能性を発見するのです。
その例に見られる新たな組織モデルの片鱗を、さらに磨き上げた理想の組織を「ティール組織」と名付けています。
この概念は、ビジネスマンを中心として、世界中から多くの注目を集めました。
なぜなら、これから成功する組織に必要な論理は、従来からの組織論とは全く異なるものであることが実例を持って示されたからです。
たとえば、ティール組織では、自主経営(セルフマネジメント)を取り入れているため、上司と部下の関係や売り上げ目標、また達成すべき予算がないのです。
組織を構成する下部組織や、その構成要素となる個人に、大幅な権限移譲をして自主性に任せている点に特徴があります。
1-2.注目される理由
既存の組織とティール組織は異なるロジックで運営されます。
既存の組織に限界を感じている人にとっては、主に以下のような3つの要因から注目を集めているのです。
1つ目は、従来の組織形態のなかで多くの人が疲弊しているからです。
従来の組織では当然だったのですが、個人は組織に合わせる必要がありました。
いわば、個人を殺して組織人として振る舞う必要があったのです。
このような状況は人を疲れさせます。
2つ目は、早いスピードで市場が変化しているため従来の組織形態では生き残ることができないからです。
トップ・マネジメントが意思決定を専有的に行う上意下達型のピラミッド組織では、流動的な市場環境に対応が難しくなっています。
3つ目は、物質的に豊かになった環境のなかで、働く人の価値観が大きく変化しているからです。
会社組織のなかでの出世より、自分の趣味や社会貢献を優先する人が増えています。このような考え方は、会社への忠誠を誓わせるような既存の組織風土には全く合わないのです。
2.従来の組織とティール組織の違い
フレデリック・ラルー氏は、組織モデルや意識の発達段階を色で分別することで、新しい組織論の説明を試みています。
ティール組織についてより深く理解するために、以下で組織の歴史的発展経緯を色分けモデルごとにわかりやすく解説していきましょう。
2-1.レッド(衝動型)組織
「レッド(Red、赤色)組織」は、ラルー氏によれば、組織モデルとしては最古のものと定義されています。
たとえば、オオカミの群れのようにトップの人間がメンバーに対して高圧的な態度をとり、力で支配するような組織です。
力こそが支配力に直結するため、場当たり的な面が否めません。
また、メンバーがトップの支配に依存してしまい、自分の持てる能力を発揮することなく、自分の立場を守るような保身行動が多くなりがちです。
組織の持続可能性から見たレッド組織の特徴は、現在の利益が主な関心の的であり、中長期的なビジョンを考慮した取り組みに注意が払われることはほぼありません。
2-2.アンバー(順応型)組織
「アンバー(Amber、琥珀色)組織」は、軍隊に例えられるような組織モデルです。
組織全体の統制を図るため、上意下達型の官僚制や階級制度などの概念で組織を構築します。
トップは、秩序を守るためにルールや基準を適用するのです。
長期的展望や計画性が重視され、特定の個人レベルへの依存は、役割分担によりレッド組織より低くなっています。
全体的なまとまりは抜群なのですが、ほかの組織に対して排他的な傾向が生まれやすく、敵対意識を持つ場合があるのです。
2-3.オレンジ(達成型)組織
「オレンジ(Orange、橙色)組織」は、個人的な「成功」にフォーカスした組織モデルです。
トップが論理的な思考により、組織の目標達成を第一に考えて行動するのはアンバー組織と共通です。
ただし、厳格な階級組織はなく、成果次第では出世が可能になっています。
そのため競争が発生して、機械のように働く現象がみられるようになるのです。
また、マーケティングや製品管理などを組織に組み込み、興味を外部へと向ける傾向にあります。
そのため、多くの人から受け入れやすい性格を持っているのです。
20世紀型の企業組織は概ね、このタイプの特徴を色濃く持っています。
2-4.グリーン(多元型)組織
「グリーン(Green、緑色)組織」は、社員一人ひとりの多様性を尊重した風通しの良い組織モデルです。
家族同士のような思いやりを重視しており、社員の心の健康状態は良くなります。
オレンジ組織のようなヒエラルキーは残りますが、機械のように働くことはありません。
個人の主体性が発揮しやすく、多様な価値観が尊重されることを目指す組織です。
その反面、細かいルールがないため業務が円滑に進まないことがあります。
個人の意見は出しやすいのですが、意思決定の迅速さに欠けたり、合意形成がとれなかったりするケースが出やすい特徴を持っています。
2-5.ティール(進化型)組織
最後は「ティール(teal、薄緑色)組織」ですが、いわば生命体のような組織と言えます。
レッド、アンバー、オレンジ、グリーンの各組織などで見られた、社長や管理職からの指示命令系統はありません。
「組織の進化する目的」を実現するために、メンバー全員が信頼に基づき、独自のルールや仕組みを工夫しながら、目的実現のために、組織運営を行います。
指示命令ではなく、共鳴といってもよいでしょう。
「組織の進化する目的」を共有したあとは、各メンバーが自分の持てる力を発揮することになります。
その際、組織の目的と個人の目的が一致するときに、最も強力なティール組織になると定義されているのです。
3.ティール組織との違いからわかる従来の組織の課題
オレンジ組織などの達成型組織では、自社の拡大と生き残りを目標にすることでメンバーのモチベーションを高めようとします。
そこでは、上意下達型の中央集権的な組織構造が基本です。
達成型には、効率的な資源(ヒト、モノ、カネ)配分によって、イノベーションを起こす効果はあります。
結果として、過去2世紀のあいだ、莫大な富を生み出してきたのです。
しかし、経営の効率化や行き過ぎたイノベーションにより、さまざまな課題が露呈してきています。
3-1.プレッシャーを超えた恐怖心がある
達成型組織の特徴である、他社との競争や社内でのポジションを獲得する競争は、常に働いている人に「恐怖」を与えることで成立しています。
達成型企業は「市場で負けたら倒産してしまう恐怖」や「株主からのプレッシャー」により常に成長を目指さなければならない状況にあります。
そこで、トップ・マネジメントからの訓示は「いま気を抜けば競合に追い抜かれる」ことを力説するわけです。
社員が感じる組織的なプレッシャーとしては「結果を出さなければ上司に怒られる」「出世競争で負けてしまう」などがあります。
これは精神的に負担の大きい状態なので、人は「恐れ」を感じることになるとラルー氏は主張します。
しかし、恐れていても、猛烈に働かなければならない状況に置かれてしまうのが達成型組織なのです。
3-2.不必要にエネルギーを消耗している
達成型組織では、組織の維持管理のために多大なエネルギーを消耗する傾向にあります。
そのため、本来重視すべき顧客との対話や創造的な活動が阻害されています。
たとえば、組織権力のトップであるCEOは常に会議に追われ、意思決定の過多でストレスを抱え込んでいます。
また、中間管理職であるミドルマネージャーは、更に疲弊しがちといわれます。
というのは、チームの目標達成と部下の成長を両方見る必要があるからです。
中間管理職がメンタル的に追い込まれがちなのはここに原因があるといえるでしょう。
そのほかにも、既存の組織に見られる社内政治、根回し、不必要な会議など、非生産的な活動を数えればきりがありません。
3-3.本来の能力を発揮できない
このような既存の組織内で働く従業員は、至上命題としての業績向上に注力するため、仕事で必要な能力のみを発揮するようになっていきます。
いわゆる「企業人」となるわけです。
このとき、業績向上に不要な個人の個性を封じてしまします。
多様性が許されれば本来発揮できるはずの能力は、そこでは使われることがありません。
いわば、仮面をつけて毎日仕事をしているようなもので、組織のなかでの自分と、本来の自分のギャップが大きくなっていくのです。
4.ティール組織を実現する上で重要な3つのポイント
では、ティール組織を実現するために必要な要件を確認しておきましょう。
それは「セルフマネジメント」「ホールネス」「組織の存在する目的」の3要素を満たすことです。
4-1.セルフマネジメント(自主経営)
セルフマネジメント(Self-management)とは、それぞれの社員が上席から指示されるのではなく、自ら目標を掲げて行動し、それを組織の運営に活かせる状態のことです。
特徴のひとつは、「ルールや規律をあらかじめ決めておいて、それに従う」のではない点が挙げられます。
等しい権限を持つ社員が共に働きながら、自然にルールやチーム、担当などの配置が決まっていく状態が理想的です。
ただし、セルフマネジメントに移行するためには、そのメリットを社員同士で十分に共有しておく必要があります。
そのうえで、お互いが持つ知識や技術、仕事の進捗など、情報を常に共有できる環境を用意します。
具体的には、人事評価や給与などを含めた情報の透明化、意思決定プロセスの権限を個人に委譲することが求められます。
また、パワハラなどの、管理者の個人的な事情に左右されない人事プロセスの明確化も必須です。
問題が発生した場合、自らの力で解決できるようにサポートする体制も組織として整備します。
4-2.ホールネス(個人としての全体性の発揮)
ホールネス(Wholeness)とは、全体性のことを指します。
ティール組織では、社員の心理的な健康状態を良くして、個々の力や個性を存分に発揮できる環境を作ることが必須です。
既存の組織では、組織での顔とプライベートでの顔は使い分けられること一般的で、またそれが推奨されます。
ホールネスを簡単に言えば、自分の能力の全体が発揮できるように、このような2つの顔をなるべく分けないようにすることです。
たとえば、オフィスのインテリアや備品選びを上から決めたルールで統一させるのではなく、個人の裁量に任せることがあります。
また、ルールを定めたうえで子供やペットと一緒に働ける環境にする工夫も考えられるでしょう。
このような柔軟性は、既存の組織からは出てこない発想です。
従来の組織モデルとは異なる考え方の導入が必要となります。
組織人としてではなく、素直に人の意見に耳を傾ける力やコミュニケーション力などがティール組織を活性化するための必須のスキルになるのです。
組織のマネジメントという観点からは、お互いの意見を伝えることができるような環境を整え、不安を感じている人物がいれば、組織全体で寄り添うよう対応することが大切になります。
4-3.組織の存在する目的
組織の存在する目的は、進化する目的(Evolutionary purpose)ともいわれます。
ティール組織では、組織全体を生命体のように捉えます。
生き物に生きる目的があるのと同様、組織にも存続し、進化する目的があるとみなすのです。
組織の目標や働き方などについて、常に社員同士で共有していることが重要になります。
デジタル機器なども活用して密なコミュニケーション環境を作って、組織の存在目的を互いに意識できるようにすることがポイントなのです。
5.ティール組織における誤解と正しい理解
既存の組織のマネジメント手法からみれば、ティール組織を作り上げることは困難に見えることでしょう。
特殊で限定的な条件のなかだけでしか実現できないと考える意見があります。
しかし、それは誤解である場合も多く、ここでティール組織を考えるうえで大切なポイントを紹介します。
5-1.業種や規模の大小は関係ない
ティール組織に規模は関係ありません。
少数のほうがティール組織を作りやすいという意見があります。
しかしながら、ティール組織の構築では「セルフマネジメント」「ホールネス」「組織の存在する目的」などの基本要素が満たされているかどうかが重要な点です。
たしかに、大組織の場合、従来の組織構造からティール組織に移行する際の時間については、中小組織に比べて必要になるでしょう。
ただし、最終的には機能的な面で組織の規模を気にする必要はないのです。
5-2.どのようなビジネスモデルでも対応できる
ティール組織に、適切なビジネスモデルというものはありません。
ラルー氏の著作に示された例を見ても、各組織は試行錯誤を繰り返すうちに「セルフマネジメント」「ホールネス」「組織の存在する目的」などを獲得しています。
つまり、どのようなビジネスモデルを持つ組織であってもティール組織に移行はできるのです。
5-3.従来の組織モデルを全否定するものではない
ティール組織は革新的な面を持つため、以前の組織モデルを否定するようなイメージを持たれることがありますが、それは正しい認識ではありません。
ティール組織は過去の組織化の試行錯誤の積み重ねの上に成り立っているため、それぞれの組織の特徴を含んでいるのです。
そもそも、組織は常に変化して流動しているものです。
ティール組織に関しても、否定というネガティブな方向ではなく、既存の組織の良い部分を吸収しながら変化し続ける柔軟性を持っています。
5-4.ティール組織はホラクラシー型組織ではない
ホラクラシー(Holacracy)とは、従来の組織に見られるヒエラルキー(Hierarchy、階層性)に相対する概念です。
組織において、階級や上司・部下の関係が存在しない管理体制を指します。
たとえば、従来のヒエラルキー組織では「役職」だったものが、ホラクラシー組織では「役割」に変わるのです。
階級がないホラクラシー組織では、セルフマネジメントが重要になります。
そのため、ティール組織とホラクラシー組織が同一のものであると勘違いしている人が少なくありません。
この点についてラルー氏は、すべてのティール組織がホラクラシー組織とは考えていません。
ティール組織の組織構造のひとつとしてホラクラシー的構造が存在しているとみなしているのです。
このあたりは混同しないようにしましょう。
6.ティール組織の正しい理解が組織運営に役立つ
ラルー氏によれば、ティール組織では、一部の機能を組織で取り入れたり、何度も繰り返して改善をしたりするなかで、各組織の型が決まってきます。
既存の体制からの脱却を心から願うリーダーであれば、組織やメンバーたちに進化のきっかけを与えることができるのです。