1.従業員エンゲージメントとは

もともとエンゲージメントという言葉には、「約束」「婚約」といった意味があります。
ビジネスの世界ではもう少し解釈が進み、企業や人、ブランドやサービスなどへの愛着・絆、関係性を指す言葉となります。

たとえば、マーケティングの分野では、顧客と企業との長期的な信頼関係や絆を醸成する、といった意味合いで使われています。

エンゲージメントは顧客だけに使われる言葉ではありません。

人事や組織開発の分野では、従業員に対して「従業員エンゲージメント」という言葉が用いられます。
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業のビジョンや目標に共感していること、企業ビジョンを実現するために自発的な貢献意欲があることなどを表します。

つまり、従業員エンゲージメントが高い状態というのは、企業の目指す未来と、従業員が貢献していきたいベクトルが合っている状態のことです。

そして、さらにそれが従業員の人生における自己実現にもつながるというのが理想的です。

2.日本の従業員エンゲージメントが低い理由

欧米と比べると、日本の企業における従業員エンゲージメントは一般的には低めです。

日本人は企業のビジョンや目標達成に向けての自発的な貢献意欲は高いはずですが、勤勉な性質ゆえに、目の前の仕事に追われてしまう傾向にあります。

さらに、日本企業では溜まった業務を残業や休日出勤で片づけるというやり方が根強く、なかなか高い視野で物事を考える余裕が生まれにくいのです。

そのため、部分最適や短期化が進み、視野が狭くなっていくという傾向が年々強くなっています。
こういった要素が、従業員エンゲージメントを下げている要因と考えられています。

従業員だけでなく、企業にとっても、従業員のエンゲージメントが下がっていることは大きなマイナスです。
現状を打破するために、働き方の改革が急務となっています。

3.従業員エンゲージメントの向上が必要な理由

ここからは、従業員エンゲージメントの向上がなぜ必要なのかについて解説します。

従業員エンゲージメントは、従業員のやる気を引き出し、結果として企業の業績向上にもつながるとして、多くの企業からの注目が集まっています。

3-1.従業員の生産性やパフォーマンスが高まる

従業員エンゲージメントが高まると、従業員のモチベーションが上がり、自発的に高いアウトプットを出していくようになります。

業務のアウトプットが上がることで顧客へのサービスも良くなり、企業の業績も向上していくでしょう。
業績が向上することによって、企業全体の士気が高まり、従業員としても所属する企業で働くことを誇りに感じられるようになります。

全体的なパフォーマンスが上がることによって、従業員もさらに高い視点と広い視野を持って業務に取り組んでいくという、win-winのサイクルが回っていくのです。

3-2.優秀な人材の流出を防ぐ

企業にとって、優秀な人材は大事な資産です。
日本企業では、終身雇用や年功序列システムによって優秀な人材の流出を防いできました。

しかし、それらが崩壊しつつあり、代わりに成果に基づく人事評価を導入する企業が増えている背景から、従業員がかつてほど企業に「愛社心」を抱かない傾向にあります。

そのカンフル剤となり得るのが、従業員エンゲージメントの考え方です。
従業員エンゲージメントを高めることで、企業と従業員とのあいだに生じる信頼関係も強固なものとなっていきます。

企業を信頼できることによって従業員の自発的な貢献意欲も高まり、結果として優秀な人材の流出を防ぐことにつながります。

4.従業員エンゲージメントを測る指標

エンゲージメントの度合いを測定したいけれど指標がわからないという場合もあるでしょう。
組織のエンゲージメントを測る指標として、米国のギャラップ社が実施している「エンゲージメント・サーベイ」というものがあります。

全世界1,300万人のビジネスパーソンを調査し、導き出された「エンゲージメントを測定するための12の質問項目」を紹介します。

  1. 職場で自分が何を期待されているのかを知っている
  2. 仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
  3. 職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
  4. この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
  5. 上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
  6. 職場の誰かが自分の成長を促してくれる
  7. 職場で自分の意見が尊重されているようだ
  8. 企業の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
  9. 職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
  10. 職場に親友がいる
  11. この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
  12. この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった

5.従業員エンゲージメントを高めるために必要なこと

従業員エンゲージメントを高めるためには、さまざまな取組みが必要です。

5-1.適切な人事評価

従業員としては、自分の成果が正当に評価されれば励みになりますし、何より企業に大事にされていると思えるのではないでしょうか。

従業員エンゲージメントを高めるためには、まずは明確で公平な人事評価制度を確立することです。

成果を評価する複数の指標を定め、目標を立てやすくすることが大切です。

目標の達成度合いがわかりやすくなり、また視覚化されることで、従業員としても成果を上げた際には、高い達成感を得られます。

こうしたものがない場合は、評価する体制を構築し、評価指標を整えることが必要です。

5-2.社会に提供する価値の明確化

企業が社会へ与える提供価値を、企業ビジョンに織り込んで明文化しておくことも大切です。

数値的な目標ではなく、企業の存在意義、世の中で果たしていきたい使命や役割をできるだけわかりやすい言葉で伝えましょう。

顧客や世の中に周知できるだけでなく、従業員としても取り組んでいる業務を通じ、社会へ貢献できていることが理解しやすくなります。
目指す方向に強く共感できれば、その企業で働くことを誇りに思えるでしょうし、さらに貢献したいと思うようになるでしょう。

企業として長期的に成長していくためには、外側に顧客というファンを作ることはもちろん大切ですが、内側にも従業員というファンを作ることが必要です。

5-3.適材適所な人材配置

従業員が持つ能力を最大に発揮させるためには、適材適所な人材配置が必要です。

完璧な人というのは少なく、普通はそれぞれの強みや得意分野があります。

それを正しく見極めて、できるだけアウトプットを出しやすい仕事を与えることです。

自分の力が最大限に発揮できれば成果を出しやすく、成功体験は自信につながります。

生き生きと仕事ができれば、従業員エンゲージメントも向上するでしょう。

従業員の強みや得意分野を見極めるためには、人事評価におけるデータや生の対話を通して、それぞれのスキルや能力を把握することです。

定期的に目標管理ミーティングも行い、従業員が目指しているキャリアパスを知ることも必要です。

5-4.部下への適切なフィードバック

若手の部下を育成するうえで必要不可欠なことが、適切なフィードバックです。

定期的にコーチングやトレーニングを行う機会を取り入れましょう。

上司としても、部下の仕事に対する熱量や問題意識を知ることができます。

隠れた才能を発見できるかもしれません。

部下としても、自分の業務をきちんと見ていてくれる上司がいるというのは安心感や信頼関係にもつながるでしょう。

結果として、仕事へのモチベーションアップが高まり、企業への愛着も増していきます。

部下への適切なフィードバックは、従業員エンゲージメントを高めることにつながります。

5-5.社内コミュニケーションの活性化

業務の相談はもちろん、雑談も含めて、社内コミュニケーションは大切です。

コミュニケーション不全が起きると、ほかの人が信じられなくなったり、必要な相談ができなくなったりして、結果として企業への愛着が低下してしまいます。

同僚やチームメンバーなどとの良好な関係を築かれている風通しの良い職場のほうが、従業員エンゲージメントは高くなります。

従業員エンゲージメントが高ければ、自然とこのチームのためにがんばりたい、この人のために貢献したいと思えるようになってくるでしょう。

6.従業員エンゲージメントを高めると得られるもの

メリットがわかれば、より取り組みやすくなります。
従業員エンゲージメントを高めることで、どのようなことが得られるのでしょうか。

6-1.仕事の生産性が高まる

従業員エンゲージメントが高まっている状態というのは、所属する企業の進む方向性を理解し、そこで働くことに喜びや誇りを感じている状態のことを指します。

企業の存在意義を高く評価し、自分も仕事を通じてそのそれに貢献していると感じることで、仕事へのモチベーションが高まり、アウトプットの量や質が上がります。

結果として、企業の業績向上やブランドイメージアップにもつながるでしょう。

6-2.自発的な取り組みが増える

たとえ年下の部下であっても、上司の思い通りに動かすのは難しいものです。

人には意思や感情があり、相手が上司とあっても、一方的に命令された仕事では、がんばるべき意義が見出しにくいこともあるでしょう。

また、自分の意思で推進している仕事ではないため熱量も低く、問題が起きたときにもすぐに諦めてしまうようになります。

しかし、自分の努力が企業や社会への貢献につながるという意識を持つことで、何としても成し遂げようという力に変わっていきます。

エンゲージメントが高まると従業員からの自発的な取り組みが増え、上司としても部下の説得に費やしていた時間を、ほかの生産性の高い業務に活用できるでしょう。

6-3.離職率が低下する

仕事への満足度の中には、当然報酬も含まれます。

しかし、従業員にとって給与面だけがその企業で働く魅力なのであれば、当然ながらより良い条件を提示されたらすぐに新しいところへ移ってしまうでしょう。

優秀な社員の流出を防ぐためには、給与での待遇に加えて、適切な評価や仕事のやりがいなどを通じて、企業への愛着を持ってもらうことが大切です。

そのようにして高い従業員エンゲージメントが醸成できれば、給与面だけではなく、より高い視点を持ってその企業で働き続けたいと思ってもらえます。

結果として、離職率の低下にもつながります。

6-4.リファラル採用の成果にもつながる

リファラル採用とは、自社ですでに働いている社員からの人材の紹介や推薦による採用方法のことです。

自社に適性が高いと感じられる人が紹介の対象となるため、企業文化とマッチする人材を集めやすいというメリットがあるのが特徴です。

従業員のエンゲージメントが全体的に向上すると、リファラルをしてくれる人が増える傾向があります。

リファラル採用を増やすためには、従業員エンゲージメントがまだ低い人にも目を向け、エンゲージメントの改善に取り組むことが大切です。

リファラルを継続的に発生させ、企業の文化として根付かせていくことで、企業としても長期的に安定的に存続していけるでしょう。

7.従業員エンゲージメントを向上させた企業事例

具体的な企業事例があるとさらにわかりやすいでしょう。
従業員エンゲージメントの向上に成功した国内外企業の事例を4つ紹介します。

7-1.スターバックスの場合

スターバックスでは、従業員一人ひとりが自発的に物事を考えたり動いたりできるような仕組みを構築しています。

仕組みを回していくために、スターバックスではアルバイトも含め、従業員に対して一人ひとりが目指す姿をヒアリングしています。

そのうえで、自己実現に向けてスターバックスでどのような経験を身につけたいかという視点で、従業員の成長をサポートしているのです。

自分にとっても大きなメリットがあれば、当然やる気を持って業務に取り組めるでしょう。

たとえば、接客業を通じて相手はどう感じたか、どういう行動を取ると相手の満足度が上がるのかという点について、従業員自らが考えて自発的な行動に移すようになります。

定期的にフィードバックを行い、がんばりに応じて表彰を受けられる仕組みもあります。

自然な形で従業員のやる気を引き出し、相手のために考える力を育て、結果としてエンゲージメントを高めていった成功例のひとつです。

7-2.ヤマト運輸の場合

ヤマト運輸では「満足ポイント制度」を2008年11月から導入しています。同僚や企業からの評価に加えて、自己評価をポイントとして企業内ネットワークシステムに貯めていく仕組みです。

計算される期間は1年間で、そのあいだに貯めたポイントの数によって、4種類のバッジが贈られます。

互いを褒めあうという制度によって従業員同士で良い面を引き出し、さらに職場の士気も高まっていくという、シンプルですが理にかなった仕組みです。

結果として、従業員エンゲージメントの向上につながり、グループ企業にも広がっています。

7-3. Googleの場合

2015年度に米国の求人情報検索サイトを運営する企業が行った調査によると、Googleは「従業員がもっとも働きやすい企業」という評価を得ています。

また、同年度に企業ブランディングを専門とするユニバーサムが、世界12カ国を対象に行った調査でも「憧れの就職先No.1」に輝くなど、世間のイメージでも高い評価です。

実際にGoogleでは、社員からの質問に答えるフォーラムを設けたり、上司に関する定期的なアンケート調査を行ったりするなど、人事面での工夫が光ります。

さらに、チャットやメールでGoogle社のリーダー達に直接アイデアや相談を持ち込めるなど、積極的に社員の声に耳を傾ける姿勢が見られます。

ビジネス面だけでなく、人事面の取り組みにおいても先進的だと言えるでしょう。

結果として、従業員のエンゲージメントも高まり、数々のランキングでもそれが証明されています。

7-4.小松製作所の場合

小松製作所では、2012年から従業員エンゲージメントに力を入れてきました。

論理的なプロセスでエンゲージメント向上のための仕組みを構築し、成果を上げています。

具体的には、信頼関係やチームワーク、モチベーションなどの5つの要素に関する調査を行いました。

そして、それを得るためには何が必要か、どのような目標が適切かについて検討を重ねた結果、エンゲージメントを高める仕組みを構築したのです。

編み出されたカリキュラムをもとに、従業員研修を進め、フィードバックを繰り返していったことによって、半年で従業員エンゲージメントが33%から70%にまでアップしました。

こうした着実なやり方であれば、日本企業でも導入しやすいのではないでしょうか。

8.従業員エンゲージメントを高めるメリットは多い

従業員エンゲージメントとは、企業に対しての信頼や愛着を表す指標のことです。
高めていくことで従業員のモチベーションを引き出し、企業パフォーマンスの向上にもつながります。

何より、従業員が自分の仕事を楽しく感じることで、離職率の低下も期待できます。
日本では労働人口の減少が深刻化しています。

せっかく採用した優秀な人材を流出させないためにも、従業員エンゲージメントを高めていきましょう。