OKRのメリット・デメリット
OKRはObjective and Key Resultの略称で、「達成目標と主要な結果」という意味です。
目標と目標達成度を測る指標を結びつけ、企業やチーム、個人の方向性や役割を明確にする目標管理方法です。
1970年代にIntelが導入し、GoogleやFacebookなど多くのグローバル企業が採用しています。
日本でもメルカリなど、OKRを採用する企業が増えています。
OKRでは、企業全体の目標から事業部の目標、チームの目標と細分化してから、最終的に個人の目標を設定するのが特徴です。
企業は目標を達成するため、効率的な経営を行わなければなりません。
OKRは組織と個人の方向性が統一され、それぞれの役割に集中できるため経営から無駄を省くことができます。
それだけではなく「企業と従業員の間に絆や信頼関係を育むことができる」ともいわれているため、組織力を強化することにもつながります。このようにOKRは魅力的な方法ですが、メリットだけではなくデメリットもあります。
それぞれについて確認をしていきましょう。
OKRのメリット
最初に、OKRのメリットを紹介します。「従業員エンゲージメントの向上」「高い目標設定ができる」「目標達成率の向上が期待できる」「目標に対する優先事項が明確になる」などがOKRのメリットです。
OKRでは、会社の目標と個人の目標を連動させるため、会社への貢献が見えやすく、評価への納得度も高くなり従業員エンゲージメントが向上します。
また、全従業員が定期的にコミュニケーションをとり、その都度、貢献度や納得度を確認することが可能です。
そのため、会社と従業員双方の信頼感も高まります。
OKRの目標達成率の判断基準は、60%~70%と設定するのが最適とされており、高めの目標設定ができるのです。
従業員は、人事考課に影響がないので失敗を恐れず目標にチャレンジすることができます。
そのため、従業員の個性や創造性が発揮され、会社、従業員ともに目標達成率の向上が期待できるのです。
OKRでは社長をはじめ全従業員が目標を公開して共有し、進捗状況を確認するため目標に対する優先事項が明確になります。
従業員一人ひとりの業務が、達成目標から外れてしまうのを防ぐ効果もあるのです。
さらに、役職などにとらわれない従業員同士の連携が可能なため、会社全体、従業員個々の生産性のアップを図ることができます。
OKRのデメリット
次に、OKRのデメリットを紹介します。
ベンチャー企業など、OKRの目標設定期間である四半期以上のスピードで全社の方針・戦略・目標が変わる場合は、目標と実態が一致しません。
柔軟に方針・戦略・目標を変えることが適切な会社の場合は、OKRの運用が難しくなるのです。
従業員の人数が少ないなど、一人が複数の役割を担う必要がある場合は、OKRでの目標設定自体が難しくなります。
また、OKRは、評価やフィードバックに時間がかかります。
評価やフィードバックに時間をかける余裕のない会社には、OKRの導入は向いていません。
OKRと他の手法の違い
目標管理手法としては、OKR以外にもKPIやMBOといったものもありますが、目的や運用方法が異なります。
それぞれの違いを確認していきましょう。
OKRとKPIとの違い
同じく目標管理手法であるKPIとの違いについて紹介します。
KPIとは(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)のことで、OKRの定量的な効果測定である目標達成度指標(Key Results)と類似している業績管理手法です。
KPIは「最終目標を達成するために必要なプロセスの経過目標」と定義されます。
KPIの役割は、最終目標の達成に向かって、プロセスが適切に実行されているかどうかを計測することです。
一方、OKRは1カ月に1回程度の振り返りで、目標自体を見直すこともあります。
KPIの目標は現実的で実現可能な範囲で、既存のプロセスやプロジェクトの成果を反映するものですが、OKRはチャレンジングな目標設定です。
OKRとMBOとの違い
同じく目標管理手法であるMBOとの違いについて紹介します。
MBOとは(Management By Objectives:目標管理制度)のことで、目標達成を目指すセルフマネジメントのことです。
1954年に、P.F.ドラッガーが提唱した組織マネジメントの概念をいい、多くの日本企業が採用しています。
MBOは、組織の事業目標達成につながる形で、個人の目標を設定し、業績アップを目指す手法です。
一方で、OKRでは組織力の強化も業績と同じくらい重視します。
MBOは人事考課に活用されることが多いですが、OKRは人事考課に活用しません。
MBOの基本はセルフマネジメントであるため、組織や上司の指示や指導が無くても従業員のモチベーションを高め、スキルや能力向上にも効果があるといわれています。
OKRでは、全社員でのコミュニケーションを重視するのが特徴です。
MBOでは個々のパフォーマンスに焦点を当てた目標管理をするのに対し、OKRでは全社一体となって目標を目指します。
OKR運用の5つのステップ
OKRのメリットを享受するためには、目標設定や評価など適切な運用が大切です。
そのための5つのステップを紹介します。
Objective(目標)を設定する
OKRでは、最初にObjective(目標)を設定します。
その際には「野心的でチャレンジングな目標であること」「シンプルで覚えやすいこと(覚えやすければ、定性的でも定量的でもOK)」「期限が明確であり、そのスパンが1~3カ月であること」「チームでアクション可能であること」「会社の目標や、他のチーム目標などと整合性がとれていること」「1チームや個人の目標設定数の目安は3個~5個であること」を配慮して設定するようにしましょう。
Key Results(主要な結果)を設定する
次に、Key Results(主要な結果)を設定します。
その際には「計測可能で定量的であること」「Objective(目標)を達成可能にするものであること」「Objective(目標)を優先順位付けするものであること」「困難だが不可能でないストレッチした内容であること」「数は3つくらい(2個~5個程度)であること」に配慮して設定するようにしましょう。
全社員でOKRを共有する
目標と主な結果が設定できたら、全社員でその内容を共有しましょう。
OKRは、経営トップ(経営陣)から社員まで全員が対象になります。作成されたOKRは社内イントラネットを使用するなど、全社員に公開し共有することが大切です。
全社ミーティングや部門ミーティングなどで、経営トップや事業部門責任者が自らのOKRを公表します。
そうすれば、会社全体の方向性が定まり、取り組むべき優先課題を全社員が理解することが可能です。
組織としての結束力を強化する効果も期待できるでしょう。
定期的なレビューを行う
OKRは実際に運用が始まってからも、定期的なレビューが必要です。
OKRでは、従来の目標管理方法よりも頻繁に1週間~1カ月に1回程度の目安でレビューを行います。
組織・個人の観点から、OKRの進捗状況の確認・更新、課題・達成阻害要因の確認、次の一手の設定を行わなければなりません。
レビューの際に確認した進捗状況や課題、それに対する対応方法などは組織の全員で共有する必要があります。
成果の測定と評価を行う
OKRは目標管理方法のひとつなので、KPIやMBOと同じように、成果の測定と評価が必要です。
定期的なレビューで確認した進捗達成度に応じて、社員一人ひとりの進捗に対する評価やアドバイスを行います。
四半期でのレビューでは、目標の達成度を確認し、当初の目標が妥当であったか確認しなければなりません。
目標が妥当でないと判断した場合には、目標自体の修正も必要です。
最終レビュー(通年)では、主な結果の成果の成功要因・失敗要因を分析します。
次年度以降のOKRの設定に、役立てるためです。
その際、OKRによる人事評価は行わないようにすることが重要になります。
OKRを運用する際の注意点
OKRを適切に運用する際に、いくつかの注意すべき点があります。
ここでは、目標設定の手順、達成度などを紹介します。
目標は企業から個人に細分化する手順で設定する
企業全体での統一感ある目標を設定するために、企業全体の目標を立ててから、個人に細分化していく手順で目標を設定しましょう。
企業全体のOKR(目標と主な結果)を設定してから、チームのOKR、チームメンバーのOKRと細分化していきます。
その際、企業の主な結果とチームの目標、チームの主な結果とチームメンバーの目標を連動させなければなりません。
企業、チーム、チームメンバーの目標と結果が適切に連動しているかどうかをチェックすることで、整合性のあるOKRを作ることができるのです。
60~70%の達成度になるような目標を立てる
OKRのポイントは、チャレンジングな目標を設定するところにあるので、達成度は60%~70%となるのが理想的です。
全社をあげて取り組んだ結果、達成率が60%~70%程になるようなOKRを設定する必要があります。
これより低い場合は、その組織が十分な成果を上げていないことを示します。
逆に達成率が100%に近い場合は、設定した目標が低すぎた可能性があるので、もっと野心的な目標を設定しなければなりません。
OKRの評価と人事評価は切り離す
OKRの目的は全社的な目標達成や組織力の強化なので、OKRの評価は人事評価に反映させません。
人事評価に反映させないことで、チャレンジングな目標にも挑戦できる環境が整います。
企業、チーム、チームメンバーがOKRに取り組んだ過程や主な結果などを検証することによって、現状の経営や次回のOKRの改善に役立てることが大切です。
適切なコミュニケーションが取れる環境を整える
OKRを効率的に機能させるためには、企業、チーム、チームメンバーの組織的な連携が必要です。
経営トップを含む全社員が定期的にコミュニケーションをとって、OKRの進捗状況などを確認しなければなりません。
一方で、無駄なコミュニケーションによる時間の浪費が発生しないように注意しましょう。
OKRを導入している企業の事例
実際に、OKRを導入している企業の事例を3つ紹介します。
Google、Facebook、メルカリの事例です。
Googleでは、経営トップのラリー・ペイジを含むすべての従業員が四半期毎に自らのOKRを更新してイントラネットで公開します。
全社ミーティングでは、ラリー・ペイジの設定したOKRに基づいた議論が行われます。
その結果、従業員全員が会社全体の方向性や優先課題を共有し、同方向に向かって業務に取り組めるのです。
また、OKR を 0.0~1.0 の数値で評価します。1.0 は、目標が完全に達成できたという意味です。
実績を評価するためではなく、個人がどのような仕事に注力していたかを要約し、組織の OKR への貢献や影響を明らかにするために使用します。
Facebookには「大胆」であることを推奨するカルチャーがあります。
自社が持つ情報は、すべての従業員に共有される環境です。
「フェイスブックのビジョンにおいて、何ができるか」を考えることを全従業員に課しています。
「世界中をオープンでつながる世界を実現する」が組織としてのミッションです。
Facebookのクリエイティブな問題解決と素早い意思決定を重視するハッカーカルチャーにフィットした目標管理方法として、OKRが役立っています。
メルカリ
日本でも、OKRを導入している企業があります。
メルカリは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを全社員で共有しています。
全社員が、「All for One -全ては成功のために-」という意識を持って業務に取り組んでいるのです。
OKRによって「世界的なマーケットプレイスの創造」というメルカリの最終目標を細分化し、社員ひとり一人の個性や意欲を生かせる仕組みを作り上げています。
OKR運用のためのツールの紹介
OKRの効果的な運用を実現するために、HRBrain、Zealup、Resilyの3つのツールを紹介します。
シンプルに使えるHRBrain
「HRBrain」は、企業や社員の目標をクラウドで一元管理するためのサービスです。OKRに対応したテンプレートがあり、アプリでもシンプルに使えます。
30日間の無料トライアルができるZealup
「Zealup」は、組織の目標と個人の目標をつなげ、可視化や共有を行うことができるツールです。
教育機関の場合は無料で利用することができ、30日間の無料トライアルもあります。
コミュニケーションの改善からアクションの見える化までできるResily
「Resily」は、OKRに対応している目標管理ツールです。
組織の共通ビジョンや重要な成果、かかわるメンバーなどの可視化ができます。
OKRがわかる書籍の紹介
OKRについて、理解の深まる書籍を2冊紹介します。
「OKRシリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法」の前半はシリコンバレーのスタートアップの物語で、後半はOKRの設定から運営まですべてのノウハウを紹介しています。
成功の法則やよくあるOKRの失敗例も掲載されていて、OKRの導入によって個人やチームを大きく改善できる方法が理解できるでしょう。
「伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法OKR」は、世界的ベンチャー・キャピタル、クライナー・パーキンスの会長であるジョン・ドーアが、世界レベルで戦うためのシンプルで確実な方法を教える本です。
OKRとは何かがわかり、野心と創造力を最大限に解き放つ方法や、やるべきときにやるべきことに集中する方法がわかります。
OKRの運用ステップのポイントを押さえて組織力の向上を実現!
OKRの目的は、組織全体としての目標達成や組織力の向上です。
そのためには、目標設定の仕方を工夫し、密なコミュニケーションのもと定期的な評価・振り返りが必要になります。
それらのポイントを押さえてOKRを運用することで、組織の強化につなげましょう。