1. 2025年の採用市場とポテンシャル採用へのパラダイムシフト
なぜ今、多くの企業がポテンシャル採用に注力せざるを得ないのでしょうか。まずは、客観的なデータに基づき、採用市場の構造変化を紐解きます。
「即戦力」が枯渇する構造的な理由
2024年から2025年にかけて、日本の労働市場は「超・売り手市場」の様相を呈しています。厚生労働省のデータによると、2024年の有効求人倍率は1.25倍の高水準で推移しており、求人数が求職者数を大幅に上回る状況が常態化しています。
特に深刻なのが、ITエンジニア、デジタルマーケター、プロジェクトマネージャーといった専門職種です。DXの加速に伴い、全業界が同じ人材プールを取り合っているため、経験者の採用難易度は極限まで高まっています。
この状況下で「経験者のみ」「即戦力のみ」に絞った採用活動を続けることは、以下の3つのリスクを抱えることになります。
- 採用コスト(CPA)の暴騰:希少人材を獲得するために、年収提示額や紹介手数料がつり上がり、経営を圧迫。
- 機会損失の増大:採用活動が長期化し、事業計画が後ろ倒しになる。
- ミスマッチのリスク:採用要件を妥協した結果、自社のカルチャーに合わない人材を高給で雇い入れてしまう。
ポテンシャル採用の定義と対象領域
こうした背景から注目されているのが、現時点でのスキルよりも将来の成長可能性を重視する「ポテンシャル採用」です。
ポテンシャル採用は、新卒採用と中途採用の中間に位置する概念ですが、その定義は企業によって曖昧です。本記事では、ポテンシャル採用を以下のように定義します。
実務経験や特定スキルは不足しているが、基礎的なビジネスコンピテンシー(行動特性)と高い学習意欲を持ち、自社のカルチャーに適合することで、中長期的に高いパフォーマンスを発揮しうる人材の採用
主な対象は、第二新卒や、20代後半から30代前半の異業種転職者です。
比較:新卒・ポテンシャル・キャリア採用の違い
それぞれの採用手法には明確な役割の違いがあります。この違いを理解し、自社にとって適切なバランスを取っていくことが重要です。
| 項目 | 新卒採用 | ポテンシャル採用 | キャリア採用(即戦力) |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 学生(卒業見込) | 既卒・第二新卒・20代〜30代前半 | 実務経験豊富なプロフェッショナル |
| 重視する評価軸 | 基礎能力・地頭・純粋な熱意 | コンピテンシー・素養・成長意欲・適応力 | 即戦力となる専門スキル・過去の実績・人脈 |
| 育成期間 | 長期(ビジネスマナーから教育) | 中期(実務スキルの習得が中心) | 短期(オンボーディングのみ) |
| 教育コスト | 非常に高い | 高い(新卒よりは低い) | 低い |
| 採用の狙い | 組織文化の継承、将来の幹部候補 | 人員構成の是正、将来のエース育成 | 事業課題の即時解決、欠員補充 |
| 市場トレンド | 通年採用化が進む | 拡大傾向(企業の8割が積極化) | 争奪戦激化(レッドオーシャン) |
第二新卒市場の拡大とZ世代の価値観
特筆すべきは、ポテンシャル採用の主戦場となる「第二新卒」市場の活性化です。マイナビの調査によれば、2025年以降の第二新卒採用ニーズについて、8割を超える企業が積極的な姿勢を示しています。
また、求職者側の意識も変化しています。Z世代を中心とする若手層は、「ファーストキャリアで失敗しても、すぐに軌道修正すればよい」という柔軟なキャリア観を持っています。リクルートワークス研究所のデータでも、2025年卒の大卒求人倍率が1.75倍に達する中、新卒で入社した会社に違和感を持ち、早期に再就職活動を始める層が一定数存在することが示唆されています。
彼らは、基本的なビジネスマナーや社会人としての基礎スキル(報告・連絡・相談など)をすでに身につけているため、新卒採用に比べて教育コストを抑えられるというメリットがあります。この「実務経験はないが、社会人としてのOSは入っている」層をいかに取り込むかが、2026年以降の採用戦略の鍵となります。
2. 曖昧な「ポテンシャル」を科学する評価基準の設計
ポテンシャル採用における最大の失敗要因は、「ポテンシャル」という言葉を具体的に定義せず、「なんとなく良さそう」「元気がある」といった面接官の主観で採用してしまうことです。これにより、入社後に「思ったより成長しない」「指示待ち人間だった」というミスマッチが発生します。
成功の鉄則は、ポテンシャルを「コンピテンシー(成果につながる行動特性)」レベルまで分解し、客観的な評価基準を設けることです。
ポテンシャルを構成する3つの核心要素
ポテンシャルの客観的な評価には、以下の3つの要素の掛け合わせが推奨されています。

① コンピテンシー(Competency):再現性のある行動特性
スキルが「何ができるか」であるのに対し、コンピテンシーは「どのように行動するか」を指します。未経験業務であっても、過去に高い成果を出した時と同じ行動特性を発揮できれば、早期に戦力化できる可能性が高いといえます。
ポテンシャル採用で見るべきコンピテンシー例
- 達成志向:困難な目標に対しても、諦めずに工夫してやり遂げる力。
- 対人影響力:権限がなくても、周囲の人を巻き込んで協力を取り付ける力。
- 概念的思考:複雑な事象からパターンを見出し、本質的な課題を特定する力(地頭の良さ)。
② ラーニングアジリティ(Learning Agility):学習敏捷性
変化の激しい現代において最も重要な資質です。「過去のやり方を捨て、新しい環境やルールに素早く適応し、学び取る力」を指します。
- 素直さ:フィードバックを防御的に受け取らず、成長の糧として吸収できるか。
- 知的好奇心:未知の領域に対して恐れずに飛び込み、自ら情報を探索できるか。
③ カルチャーフィット(Culture Fit):価値観の整合性
どれほど能力が高くても、組織の価値観(MVV:Mission・Vision・Values)に共感できなければ、長続きしません。特に未経験からのスタートとなるポテンシャル採用では、スキル習得の過程で壁にぶつかることが多いため、根底にある「この会社で頑張りたい理由」が心の支えとなります。
評価シートへの落とし込みと質問設計
面接官ごとの評価ブレを防ぐために、具体的な評価シートを設計します。ここでは、多くの成長企業で導入されているコンピテンシー評価のフレームワークを基に、具体的な項目と質問例を提示します。
| 評価項目(コンピテンシー) | 定義 | 面接での質問例 | 評価のポイント(Good / Bad) |
|---|---|---|---|
| 主体性・実行力 | 指示を待たず、自ら課題を設定し行動を起こす力 | 「これまでに、自ら手を挙げて取り組んだ改善活動やプロジェクトについて教えてください」 | Good:課題発見→提案→実行のプロセスが明確。周囲の反対をどう乗り越えたか語れる。 Bad:「言われたことを頑張った」という受け身のエピソード。 |
| 変化対応力(柔軟性) | 予期せぬ状況変化に対し、ポジティブに適応する力 | 「急な方針変更やトラブルによって、計画が白紙になった経験はありますか?その時どう考え、どう動きましたか?」 | Good:感情的に落ち込まず、すぐに代替案を思考できている。変化をチャンスと捉えている。 Bad:環境や他責にする発言が目立つ。思考停止したことが窺える。 |
| 他者理解・協調性 | 立場の違う相手の背景を理解し、信頼関係を築く力 | 「価値観や意見が全く合わない相手と仕事をした経験について教えてください。どうやって合意形成を図りましたか?」 | Good:相手の視点に立ってアプローチを変えている。感情論ではなく論理と共感で動かしている。 Bad:「説得した」「論破した」など、一方的なコミュニケーション。 |
| 自己省察・学習力 | 失敗や成功から法則性を学び、次に活かす力 | 「最近の仕事での最大の失敗は何ですか?そこから何を学び、現在どのように行動を変えていますか?」 | Good:失敗の原因を自分事として分析している。具体的な行動変容がある。 Bad:失敗を隠そうとする。原因を「運が悪かった」などで片付けている。 |
3. 見極め精度を最大化する選考プロセスの技術
評価基準が決まったら次は、それを実際の選考プロセスでどう見抜くかがポイントです。
書類選考(行間から「一貫性」と「変化」を読む)
履歴書や職務経歴書にスキルの記載が少ないポテンシャル層の場合、書類選考の難易度は上がります。ここで見るべきは、「キャリアの一貫性」と「転機における意思決定の質」です。
- 転職理由の妥当性:「なぜその会社に入り、なぜ辞めるのか」というストーリーに論理的な破綻がないかを確認します。ネガティブな退職であっても、それを「次の環境でどう改善したいか」という前向きなアクションに変換できているかが重要です。
- 空白期間や短期離職:これらが必ずしもマイナスとは限りませんが、その期間に何をしていたか(留学、資格取得、介護など)の説明責任を果たしているかを見ます。
- 書きぶりの丁寧さ:未経験だからこそ、自己PRや志望動機をどれだけ熱量を持って書いているか。誤字脱字の有無やレイアウトの見やすさは、入社後のドキュメンテーション能力や仕事への丁寧さを予測する材料になります。
面接(「STARモデル」による深掘り)
面接では、応募者の用意してきた「綺麗な回答」を剥がし、本音や素の行動特性を引き出す必要があります。そのために最も有効なのが「STARモデル」を用いた構造化面接です。
過去の具体的な行動事実は、将来の行動を予測する最も信頼性の高い指標です。以下の4つのステップで質問を掘り下げます。
- S (Situation) - 状況:「当時のチーム構成やあなたの役割は?どのような状況でしたか?」
- T (Task) - 課題:「その時、どのような課題や目標に直面していましたか?」
- A (Action) - 行動:「その課題に対して、あなた具体的にどのようなアクションを取りましたか?(※最重要)」
- ここで「チームで頑張りました」ではなく、「私が〇〇を提案しました」という主語が「私(I)」である行動を引き出します。
- R (Result) - 結果:「その結果、どうなりましたか?数値的な成果や周囲の反応は?」
逆質問の分析による意欲測定
面接の最後に行われる「逆質問」は、応募者の知的好奇心や志望度を測る絶好の機会です。
-
評価が高い逆質問:
- 「御社の〇〇事業において、今後××のような課題が出てくると想定しているのですが、現場ではどのように捉えていますか?」
→ 仮説検証型の質問。企業研究をしており、自分なりに課題を考えている証拠です。
- 「未経験から活躍している社員の方に共通する特徴や、入社前に準備しておくべきことはありますか?」
→ 成長意欲とオンボーディングへの意識が高いことがわかります。
-
評価が低い逆質問:
- 「残業はどれくらいですか?」「有給は取りやすいですか?」
→ 条件面ばかり気にしており、貢献意欲が見えません(もちろん確認自体は悪くありませんが、そればかりになるのはNGです)。
- 「特にありません」
→ 興味関心が薄いと判断されます。
インターンシップ・ワークサンプルの活用
面接だけでは見抜けない「実務適性」を見るために、選考プロセスに「1dayインターン」や「課題提出(ワークサンプル)」を組み込む企業も増えています。
例えば、カスタマーサポート職であれば「クレーム対応のメール作成課題」、営業職であれば「商材の模擬ロープレ」などを実施することで、スキルの有無ではなく、フィードバックを受けた後の修正能力を直接確認することができます。
4. 早期離職を防ぎ、戦力化するオンボーディング戦略
ポテンシャル採用のリスクとして最も懸念されるのが「早期離職」です。即戦力ではない彼らは、入社直後は成果が出せず、強い不安を感じています。
「育てば戦力になる」彼らを潰さないためには、入社後3ヶ月のオンボーディング設計が重要です。
心理的安全性の確保とメンター制度
未経験者が最も恐れるのは、「こんなことを聞いたら怒られるのではないか」「自分は場違いなのではないか」という孤立感です。これを防ぐために、以下の施策を講じます。
- メンター制度の導入:直属の上司とは別に、斜めの関係(別部署の先輩など)のメンターを任命します。業務評価に関わらない相手だからこそ、人間関係の悩みや些細な疑問を相談でき、精神的なセーフティネットとなります。
- ランチ促進制度:後述するSmartHR社のように、既存社員との接点を増やすためのランチ代補助などを活用し、組織全体で新人を歓迎する空気を作ります。
スモールステップでの目標設定
大きな目標をいきなり与えるのではなく、小さな成功体験(クイックウィン)を積み重ねさせることで、自己効力感を高めます。
- 入社1週間:ツールのアカウント設定、社内ルールの理解、全メンバーへの挨拶完了。
- 入社1ヶ月:OJT担当のサポートのもと、定型業務を一人で完遂する。
- 入社3ヶ月:独自の工夫を一つ加え、チームに提案する。
このように段階的なマイルストーンを提示し、「できていること」を可視化して承認することが、定着への特効薬となります。
5. ポテンシャル採用×リファラル採用が最強のソリューションである理由
ここまで、ポテンシャル採用の「見極め」と「定着」の難しさについて触れてきました。実は、これらの課題を一挙に解決し、ポテンシャル採用の成功率を飛躍的に高める手法があります。
それが、「リファラル採用(社員紹介)」との掛け合わせです。
リファラル採用がポテンシャル採用の弱点を補完する
リファラル採用とは、自社の社員に知人や友人を紹介してもらう採用手法です。これがなぜポテンシャル採用と相性が良いのでしょうか。
1. カルチャーマッチの精度が極めて高い
現場の社員は、自社の「良いところ」も「悪いところ(厳しさ)」も熟知しています。その社員が「この人ならうちの会社に合いそう」「一緒に働きたい」と判断して紹介する友人は、スキルは未経験であっても、価値観や性格の部分でミスマッチが起こる確率は極めて低いです。
実際に、リファラル採用の書類選考通過率や内定率は、エージェント経由と比較して数倍〜10倍高いというデータもあります。
2. 心理的ハードルが下がり、潜在層にアプローチできる
転職サイトにも登録していない「転職潜在層」の優秀な若手にアプローチできます。「いきなり面接は怖い」という層でも、友人経由のカジュアル面談であれば参加しやすく、企業の魅力を自然に伝えることができます。
3. 入社後の定着率とオンボーディングの加速
社内にすでに知人(紹介者)がいる状態は、新入社員にとって絶大な安心感です。入社前からリアルな社風を聞いているため、入社後のギャップが少なく、紹介者がメンター的な役割を果たすことで、組織への馴染むスピードが格段に早くなります。
成功事例に見る「紹介したくなる」仕組みづくり
ポテンシャル採用とリファラル採用を組み合わせて成功している企業の事例を紹介します。
事例①:株式会社SmartHR
同社は社員数が少ない時期からリファラル採用に注力しました。特徴的なのは、社員が紹介する際の心理的ハードルを下げる工夫です。
- 「ごめんねごはん」制度:もし紹介した友人が不採用になってしまっても、気まずくならないよう、会社負担で友人と食事に行ける制度を用意しました。これにより、「落ちたら申し訳ない」という社員のブレーキを外し、活発な紹介を生み出しました。
- 結果、全入社者の約30%をリファラル経由で採用し、高い定着率を誇っています 。
関連記事:常に進化し続けたい!SmartHR式リファラル活用
事例②:freee株式会社
創業期から「自分たちの仲間は自分たちで探す」という文化が根付いています。
- カルチャーの言語化:「マジ価値(本質的で価値ある)」という行動指針を社員全員が深く理解しているため、紹介される人材も自然とその基準を満たす人になります。
- 強制的なノルマではなく、紹介すること自体が称賛される文化を作ることで、自発的な協力を引き出しています。
関連記事:20名だったfreeeを500名まで育てた採用〜freee様のエンジニア採用手法〜
事例③:株式会社セールスフォース・ジャパン
- 全社的な取り組み:人事だけでなく、経営層が積極的にリファラルの重要性を発信。具体的な募集ポジションや必要なスキルセットを社内SNS等で周知し、社員が紹介しやすい環境を整えています。
- インセンティブ:旅行券などの報酬も用意していますが、それ以上に「優秀な同僚が増えることで自分の仕事が楽になる・楽しくなる」という動機づけが機能しています 。
ポテンシャル×リファラルを実践する3ステップ
明日からリファラル採用を強化するための具体的なステップです。
- 採用要件(ポテンシャル基準)の社内周知
- 「スキルはなくていい。こういうマインド(コンピテンシー)を持っている友人がいたら紹介してほしい」と、具体的な人物像を社員に伝えます。
- 紹介プロセスの簡素化
- 履歴書不要の「カジュアル面談」を用意し、URLを社員に配布。「とりあえず話を聞くだけでもOK」というスタンスで、紹介のハードルを極限まで下げます。
- 紹介者へのフィードバックと感謝
- 紹介が発生したら、結果に関わらず感謝を伝えます。不採用の場合でも、なぜ不採用だったのかを丁寧にフィードバックすることで、社員の採用目線が向上していきます。
6. 採用難時代を勝ち抜く「育成前提」の組織づくり
2025年以降、労働人口の減少は加速の一途をたどります。もはや「完成された完璧な人材」が市場に溢れている時代は終わりました。これからの企業に求められるのは、「原石(ポテンシャル人材)を見つけ出し、自社で磨き上げる力」です。
ポテンシャル採用は、単なる欠員補充ではありません。それは、組織の文化を継承し、次世代のリーダーを創出するための中長期的な投資活動です。
本記事で解説した以下の4つの柱を実践することで、その投資対効果は最大化されます。
- 定義の明確化:「ポテンシャル」をコンピテンシーとカルチャーフィットに分解する。
- 科学的な選考:STARモデルや課題で、再現性のある行動特性を見抜く。
- オンボーディングの徹底:心理的安全性を担保し、小さな成功体験を積ませる。
- リファラルの活用:社員のつながりを活かし、マッチング精度と定着率を高める。
採用市場の変化を嘆くのではなく、変化に適応し、未経験者の可能性を信じて投資できる企業こそが、次の時代を牽引する組織となるでしょう。
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