このインタビューは、リファラル採用を積極的に行う企業様を表彰対象とした『Referral Recruiting Award 2025』の受賞企業様へ、その取り組みについてお聞きするシリーズです。
今回エンタープライズ部門を受賞した株式会社TOMASは、首都圏を中心に約110拠点を展開する進学個別指導塾です。「完全1対1」の指導スタイルで高い合格実績を誇る同社では、現場で活躍する大学生や社会人講師へのリファラル採用を推進。各エリアを束ねるブロック長や現場社員がそのハブとなりますが、目の前の生徒指導に全力を注ぐ現場にとって、採用活動へのコミットは容易ではありませんでした。
アナログ運用の限界を感じ、システム化へ舵を切った同社が選んだのは、現場に負荷をかけない「本部主導の後方支援」。現場への地道な情報発信や、ブロックごとのデータ可視化、謝礼制度の改善を通じて、いかにして現場の熱量を引き出し、年間約400名という採用成果につなげたのか。
講師の質を守りながら採用数を最大化する、戦略的なリファラル運用の裏側に迫ります。
インタビュイー

今成 麻有子氏(写真左)
株式会社TOMAS 人材開発部 課長
10代でアルバイトとして入社し、その後本部へ。現在はTOMAS講師採用の専任として、戦略立案から実務までを一手に担う。
松井 誠氏(写真右)
株式会社TOMAS 教務本部 局長
約20年にわたる教室現場でのマネジメント経験を経て、現在は110教室のバックオフィスを統括する教務本部の責任者。経営層との折衝や今成氏率いる採用チームの強力なバックアップを行っている。
アナログ運用の限界を超えて――システム化への挑戦
―― エンタープライズ部門の受賞、おめでとうございます!今期のリファラル採用約400名、そして3年連続の成長は素晴らしい成果です。まずはリファラル採用制度導入以前の課題からお聞かせいただけますか?
今成: 私が採用担当として着任した時点で、リファラル採用という文化自体はすでに存在していました。ただ、当時はシステムを導入しておらず、アナログな運用でした。紙の紹介カードを講師が友人に手渡しして、友人が選考に来る時に持参する、というフローだったんです。
それをデジタルに切り替え、Refcomeさんを導入して本格的な運用を開始した、という流れですね。
―― なるほど、文化としての素地はすでにあったということですね。具体的にどのような点に課題を感じて、システム化へ舵を切られたのでしょうか?
今成: 紙のカードだと、どうしても機会損失が多かったんです。 講師からは「友達と会えていないので直接カードが渡せない」という声があったり、せっかく紹介してもらったのに候補者の方が当日カードを忘れてしまい、紹介扱いにならないといったケースも多発していました。
当社の採用ターゲットは半数以上が大学生です。彼らのコミュニケーション手段を考えると、紙を手渡すよりも、LINEなどでリンクを送るだけのほうが圧倒的にスムーズですよね。そこを解決したいというのが一番の狙いでした。
―― 確かに今の学生さんにとって、紙のやり取りはハードルが高いですね。
今成: また、紹介謝礼の管理も大きな課題でした。応募者からのカード提出がないと謝礼が出せない仕組みだったので、「紹介したのに振り込まれていない」といった問い合わせへの対応に追われてしまって。
システム上で一元管理できれば、紹介漏れや紛失といった物理的な事故も防げますし、私たち本部側の工数削減にもなると考えました。
研修フローへの実装と、立ちはだかる「現場の壁」
―― 多くの講師の方々に新しい仕組みを知っていただくために、どのような情報発信を行われたのでしょうか?
今成: まずは既存の講師に対して、「紹介カードがアプリに変わります」という移行のアナウンスを各教室で行いました。
新規の講師に対しては、研修フローの中にアプリのインストールを組み込みました。具体的には、授業を行うための「板書研修」の資料の中に手順を載せて、その場で全員にインストールしてもらうオペレーションを徹底しました。
―― 入り口の段階から案内されているのですね。
今成: ただ、それでも現状のインストール率は60〜70%程度なんです。そこで現在は、さらに前の段階である「現場研修」の資料でも案内し、その後の「板書研修」で再度確認するという、二段構えの体制への変更を進めています。
―― 現場を巻き込むための仕掛けとして、本部からは具体的にどのようなアプローチをされたのでしょうか?
今成: 「ブロック長会議」などの場で、松井からリファラルの重要性を発信してもらっています。ただ、エリアマネージャークラスが頭で理解していても、それを末端の教室長や講師まで浸透させきれるかというと、まだ課題はありますね。
―― ここで松井様にもお伺いしたいのですが、現場を統括されるお立場から見て、実際の現場の温度感はいかがですか?
松井: 教室ごとの意識格差が大きい、というのが正直なところです。飲食店と違い、個別指導塾は教室長や地域の特性によって、拠点ごとのカラーや運営方針にどうしても差が出てしまいます。
―― 110教室あれば、それぞれ異なる事情があるということですね。
松井: そうなんです。こういう新しいアプリを面白がってよく使ってくれて、成果にもつながっている教室がある一方で、なかなか浸透しきらない教室もあります。この「校舎間格差」は課題ですね。
ですが、リファラル経由で入った講師は、定着率が通常の3倍も5倍も良い。これは間違いありません。「TOMASで働くのは楽しいよ」と言ってくれている先生が連れてくる人だから、馴染むのも早いし、人柄も保証されています。
現場運営にとっても間違いなくプラスになる施策なので、根気強く浸透させていきたいですね。

「現場任せ」からの脱却――「もくもく会」による本部からの情報発信
―― 招待からの応募率が85%というデータも拝見しました。講師の皆様が高い熱量をお持ちであることがうかがえます。その熱量を維持するためにどんなことに取り組まれたんでしょうか。
今成: 現場の意識を変えるのは重要ですが、それだけに頼っていては時間がかかります。現場社員は「講師は本部が採用して送ってくるもの」だと思いがちですから。
そこで発想を変えて、現場社員を経由せずに、本部から講師へ直接アプローチして自発的な行動を促そうと考えました。
そのために始めたのが「もくもく会」です。毎月、Refcomeの担当者さんと時間を決めて、アプリ内で配信する記事を書いたり、プッシュ通知を設定したりする作業時間を強制的に確保するようにしたんです。
―― 「もくもく会」、弊社内でもTOMASさんの取り組みとして以前から話題になってます。ユニークなネーミングですが、取り組み自体は非常に堅実な作業ですよね。
今成: 最初は私も「『もくもく』って?」と思ってたんですけど(笑)、Refcomeの方から「みなさんお忙しいので、あえて定期的に時間を取って毎月記事を書きましょう、黙々と作業しましょう」と提案いただいたんです。一人だとつい後回しにしてしまうので。
記事の内容も試行錯誤しています。進行中の新校舎の開校情報などを流しても、全員が見てくれるわけではない。例えば横浜の教室なら、その付近に住んでいる先生にセグメントして配信するなど、読み手が「自分ごとの記事だ」と思えるような工夫を重ねています。
―― 毎月継続するのは、かなりの労力が必要だったのではないでしょうか。
今成: 正直、「今月は忙しいからサボってしまおうかな」と思う時もありました(笑)。でも、Refcomeの担当の方が「来月は何日にやりますか?」「どんなネタでいきましょうか」と打ち合わせの中で並走してお尻を叩いてくださったおかげで、数年間欠かさず続けられました。
この地道な継続によって、講師の方がアプリを開くことが日常になり、結果として自発的な紹介につながったのだと思います。
―― 「自分ごと化」に成功されたんですね。具体的に反響が大きかった記事企画などはありますか?
今成: 反応が良かったのは、規定変更のお知らせですね。例えば、講師の服装規定が「スーツ必須」から「オフィスカジュアルOK」に変わった時のお知らせ。これは開封率が非常に高かったです。自分の勤務スタイルに直結しますからね。
あとは、一部の人しか出席できない「講師の表彰式」の様子をレポートして、華やかな場の雰囲気を共有するのも興味を持ってもらえますね。他にも、一番問い合わせの多い「紹介の謝礼はいつ入りますか?」といったお金に関するQ&A記事や、半期ごとに「今年これだけ採用できました、皆さんのご協力ありがとうございました」といった実績報告も読まれます。
―― 協力した結果をしっかりとフィードバックされているのですね。
今成: また、今はアプリのインストール率をブロック長ごとに集計して開示しています。データで見せると「あ、うちは浸透していないな」と一目瞭然になるので。ブロック長が熱心なエリアは、やはりしっかりと結果が出ていますね。

多忙な現場を支える「後方支援」と、新たな課題へのアプローチ
―― リファラルを進める上で、最も大きな壁は何でしたか?
今成: やはり「現場への浸透」ですね。アプリのインストール率は60~70%まではいくのですが、現場社員からの一押しがないとなかなか100%には届きません。
ただ、現場は目の前の生徒対応や保護者対応で手一杯です。それを踏まえると、現場に無理にお願いするより、採用担当である私たちが「現場の手を借りずにできること」を突き詰めるのが一番早いと考えました。例えば研修資料での案内を強化するなど、現場社員の負担を増やさずに、どれだけ数値を底上げできるかに注力しています。
松井: 現場を巻き込むのを諦めるのは良くないですが、今成の言う通り、教室の社員は本当に多忙なんです。生徒募集の営業活動、講習の勧誘、そして何より一番重いのが受験指導です。
当社は完全1対1の進学個別指導塾であり、授業単価も業界内で日本一高いと言われています。通わせる親御さんも非常に教育熱心で、期待値が高い。そのプレッシャーの中で難関校への受験指導を行う現場の負荷は相当なものです。
そんな中で今成は、現場に過度な期待をして「なんでやってくれないの」と嘆くのではなく、後方支援部隊として「じゃあ自分はどうしたらいいだろう」「現場の手を煩わせずにできることはないか」と考え、直接講師にアプローチできる手段を黙々と続けた。この前向きな姿勢こそが、成功の最大の要因だと思いますよ。
―― 現場の状況を深く理解しているからこそ、「現場に頼らない仕組み」を構築されたのですね。
松井: そうですね。加えて、トップの強力な後押しもありました。現在の社長の町田は、かつて採用に苦労した現場経験があるため、この課題へのセンサーが非常に高い。「採用は死活問題だぞ」とブロック長会議でトップ自らが発信してくれたことで、組織の空気も変わりました。
今成: あとは、毎月、紹介経由の採用者のリストをブロック長に送って「〇〇先生、お友達を紹介してくれてありがとう」と声をかけてもらうようにしています。
現場の講師とのコミュニケーションは、どうしても生徒の成績の話だけになりがちですが、リファラルは別の切り口で講師を褒めるきっかけになります。「お友達を紹介してくれてありがとう、助かるよ」と言われたら、紹介した側も嬉しいじゃないですか。そういう「褒めるための材料」を提供するのも本部側でやるべき必要な作業かなと思います。
―― 現場に浸透してきているからこそ見えてきた、新たな課題などはありますか?
今成: リファラルへの意識が高まったからこその課題なのですが、「後出しリファラル」ですね。講師が友人に声をかけてくれたものの、具体的な手順が分からず、候補者の方が「とりあえずネットで検索して、大手求人媒体から応募してしまう」というケースが起きているんです。媒体経由で応募履歴がつくと、契約上の規定で後からリファラルに切り替えることができませんから。
―― 紹介する意欲はあるのに、手順が分からず流れてしまうのは非常にもったいないですね。
今成: そうなんです。「せっかく友達を紹介したのに、話が違うじゃないか」と、モチベーションが下がってしまいますし、私としても本当に心苦しいのが本音です。
原因を探ると、現場がアプリインストール率の数字を追うあまり、アプリを入れること自体が目的化してしまい、その先にある「どうやって紹介URLを送るのか」「どういう手順で応募してもらうのか」という肝心な部分が伝わっていないことが分かりました。
今の大学生世代は、分からないことがあっても校舎に電話などで確認することはせず、ネットで自己解決しようとする傾向があります。だからこそ、今後は単なる「インストール完了」という数値上のゴールに満足するのではなく、いざという時に迷わず紹介ボタンを押せる「紹介方法の具体的な認知と理解」までを、現場の指導や研修のゴールに据えています。これが、機会損失をなくし、紹介数をさらに伸ばすための次のステップだと考えています。
圧倒的な成果と「質」の証明
―― 様々な壁を乗り越えてこられた結果、現在の成果についてはどのように評価されていますでしょうか?
今成: 一番の成果は、一人の講師が何度も友人を連れてきてくれる、「リピーター」が生まれたことですね。その起爆剤として大きかったのが、紹介謝礼を1名採用につき1万円に設定したことです。
自分以上に活躍してくれるような優秀な仲間を連れてきてくれるなら、会社としては安い投資です。卒業で彼らがいなくなったらどうしようと心配になるくらい(笑)、採用に貢献してくれています。
―― 制度が浸透し、循環し始めているのですね。採用された方々の「質」についてはいかがでしょうか?
松井: 非常に高いですね。リファラル経由の方は定着率が良いですし、何より当社の生命線である進学実績に直結する人材が採れています。例えば東京大学、一橋大学、東京工業大学といった最難関国立大学の学生講師を採用するには、やはり紹介が一番強い。
私が現場にいた頃も、講師の8割が東大生で、ほぼ彼らの紹介だけで組織が回っていました。東大生の周りにはやはり東大生が集まっていて、サークルや学部の後輩をどんどん連れてきてくれます。
リファラル採用は単なる欠員補充ではなく、TOMASのブランド価値を高めるための経営戦略そのものなんです。

未来へのビジョンと「社会人講師」への期待
―― 最後に、来期に向けた新たな施策やビジョンがあれば教えていただけますでしょうか?
今成: 例えば、たまたまアルバイトを探している友人と「今何のバイトしてるの?」という話になった時、そこで講師が自分の教室の魅力を自分の言葉で語れるような、そういう状態にしたいと思っています。現状、講師の人が実際にプライベートでどういう風に紹介してくれているのか、私たちが把握しきれていない「ブラックボックス」な部分があります。
そこを可視化するためには、やはり教室の社員とのコミュニケーションが非常に重要になってくるので、そこには力を入れていかなければなりません。
正直なところ、今回アワードをいただけたことは光栄ですが、私の中ではまだ「やりきった」という達成感はないんです。ここまでの成果は、講師の先生方が自発的に動いてくれたおかげです。今後は松井や上層部の力も借りながら、いかに現場にこの熱量を定着させるかがミッションだと思っています。
―― 現状に満足せず、さらに上を目指されているのですね。具体的な数値目標や、目指す姿などはありますでしょうか?
今成: 採用難易度が上がる中、今期は目標4400名に対し、着地は4000名弱になりそうです。
実は秋頃に広告費を一部削減せざるを得ない局面があったのですが、その時に痛感したんです。「リファラルが日頃から安定していれば、ここまで焦ることはないんだろうな」 と。
コストを抑えつつ質を担保できるのがリファラルの良さですから、月によって変動しない、安定した採用手法にしていきたいですね。新入生が多い春だけでなく、人手不足になりがちな秋もリファラルで補完し、広告に依存しない安定した基盤を作っていきたいです。例えば紹介数上位者にスタバのチケットを渡すなど、講師の中で盛り上がるような施策を来期はやってみたいですね。
松井: 年頭に「学習塾の倒産が過去最高」というニュースが出ましたが、少子化の今、我々はまさに生き残り競争の真っ只中にいます。生き残るための大きな柱は「進学実績」と「手厚いサービス」の2つですが、その面で講師の力は極めて重要です。
砂漠に網を仕掛けるような果てしない募集作業を続けるより、講師が友人を連れてきてくれる「一本釣り」の方が、教室運営としては圧倒的に確実で、かつ質が高いんです。
社長の町田も「先生の確保は死活問題」と強くバックアップしてくれています。現場の忙しさを理解した上で、本部主導でできる支援と、現場への浸透。この両面を追求し、勝ち残るための組織作りを続けていきたいですね。
―― ありがとうございます。最後に、記事をお読みの人事担当者の方や御社に興味を持っている方へメッセージをお願いできますでしょうか。
今成: TOMASは完全1対1の個別指導で、年間4400人という採用規模は他社にはなかなかないものです。その中で質と量を両立できているのは、優秀な講師のみなさんが同じく優秀なご友人や知人をリファラルしてくれているからなんです。
しかも学生講師だけでなく、経験豊富な社会人人材もリファラルで採用できている。この安心感と実績こそがTOMASの強みであり、今後も自信を持って発信していきたいポイントですね。
―― 質と量の両立、そして安心感という御社の強みが改めて伝わってきました。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

取材後記
今成氏と松井氏の言葉には、「採用の仕組み作りは本部が担う」という戦略的な覚悟が表れていました。その結果、現場の負担は最小限になり、講師たちの「良い人材を紹介したい」という純粋な熱量だけが成果として表れる好循環が生まれています。インタビュー中に印象的だったのは、これだけの成果を出しながらも、お二人が「まだここが課題だ」と終始冷静に足元を見つめ続けていたこと。現状に満足せず、常に更なる高みを目指して改善を重ねるそのストイックな姿勢こそが、妥協なき指導を追求するTOMASのブランドそのものなのだと感じました。
