このインタビューは、リファラル採用を積極的に行う企業様を表彰対象とした『Referral Recruiting Award 2025』の受賞企業様へ、その取り組みについてお聞きするシリーズです。
今回ベンチャー部門を受賞したKDDIアジャイル開発センター株式会社(KAG)は、KDDIグループのDXを牽引する戦略子会社として、アジャイル開発手法を軸にスピーディーな事業展開を行っています。設立当初の自然発生的な紹介フェーズから、組織拡大に伴い制度の形骸化が懸念される――。そんな局面で立ち上がったのは、自身もリファラルで入社した人事担当者でした。
アンケートで紹介の心理的ハードルを可視化し、マーケティング担当と連携したnote発信や全社会での呼びかけを展開。将来の採用計画達成を見据えてカルチャーを伝播させる、等身大なリファラル運用の全貌について語っていただきました。
インタビュイー

岩崎 奈津美氏(写真右)
KDDIアジャイル開発センター株式会社人事部 採用担当
自身もリファラルで入社。その実体験を活かし、社員の心理に寄り添った制度運用を牽引する。
加田木 智也氏(写真左)
KDDIアジャイル開発センター株式会社 戦略企画部
全社のブランドマーケティング戦略の立案から実行までを担当。人事としての経験を活かし、重点領域である採用マーケティングを中心に、コンテンツ制作やイベント企画を通じた社内外のコミュニケーション設計を推進している。
「まさか」の受賞。評価されたのは実体験に基づく推進
―― 改めて、受賞おめでとうございます!率直に、受賞の知らせを聞いた時のお気持ちはいかがでしたか?
岩崎: 本当に「まさか!」という感じです。受賞できれば嬉しいなと思い、自分なりにどうしたら選んでいただけるか考えて応募したつもりではありました。ただ、やはりこうしたアワードは、ものすごい成果を出していたり、突飛な施策を打っていたりする企業様が選ばれるものだという思い込みもあって。
本当に嬉しくて、すぐに社内の採用チームに共有しました。「まさかの!」という一言を添えて、受賞メールを転送したくらいです。その後、人事部長や社長にも報告したところ、皆さんすごく喜んでくれて。「どんな内容で評価されたのか、ミーティングで報告してほしい」という話になり、思った以上に社内でも大きな話題になりました。嬉しさと同時に、少し気持ちが追いつかないような感覚でしたね。
―― 想像できます(笑)。「まさかの」と仰いますが、我々の中では明確な受賞理由があるんです。
岩崎 そうなんですか?
―― はい。リファラル推進者自身がリファラル入社であり、その実体験に基づいて制度設計や周知を行っている点です。「やらされ仕事」ではなく、「自分がリファラルで入社して良かったから広めたい」という動機は貴重です。ですので、胸を張ってください(笑)。
岩崎: ありがとうございます。ちなみに加田木もリファラルで入社しております。
―― そうなんですか! ちなみにエントリーいただいた際は、偶然見かけて「面白そうだから」という感じだったのでしょうか?
岩崎: 人事が主体となってアワードや表彰などを頂ける機会があれば、会社を知ってもらえるきっかけになるのではと考えていました。その中でこのアワードを見かけ、応募条件も厳しいものではなかったので、エントリーしました。
―― エントリーにあたって、社内で相談されたり決裁などは取られたのですか?
岩崎: いえ、自信がなかったこともあり相談という相談はしていませんでした(笑)。人事部長や採用チームには共有しましたが、Slackで「Go!Go!」というスタンプの反応をもらったくらいで。
―― そのテンションで応募できるのは素晴らしいですね(笑)。加田木さんはご存知だったのですか?
加田木: 僕も受賞の知らせが届いた翌日に、岩崎さんからSlackで連絡が来て初めて知りました。エントリーしていたことも知らなかったので、最初はなんのことか分からず、驚きました。ちょうどそのタイミングで社長の木暮さんとの定例ミーティングがあったので、共有したところ、「素晴らしいですね。岩崎さんに今度詳しく聞いておきますね」という反応でした。
―― 社長様もフラットな反応ですね。
加田木: 当社は意思決定から実行までのサイクルが速く、目的に沿った提案であれば前向きに後押しされる風土があります。メンバーに裁量が委ねられているので、信頼されていると感じますね。
自然発生から、工夫が必要なフェーズへ。将来の計画達成に向けたリファラル強化
―― 社員の裁量が大きく魅力的な環境であれば、自然と人は集まるようにも思えます。なぜ今、あえてリファラル制度を強化しようと考えたのでしょうか?
岩崎: 私はリファラルで入社したのですが、当社は2022年設立ですので、最初の1〜2年は社員が自発的にリファラルで人を集めてくれていた時期でした。入社をして「リファラルで入社をしている方がこんなに多いんだ」と驚いたことを覚えています。
ただ、設立3年目、4年目とフェーズが進むにつれて、紹介数や入社数が徐々に落ち込んでいく傾向を採用データから感じ取っていました。当時はリファラル制度が存在するだけで、これといった取り組みが出来ていない状態だったので、「人事としてもっと活性化できることがあるはずだ」と感じたのが一つ。
もう一つは、採用市場、特にエンジニア職種は激戦ですので、このまま通常の手法だけで採用を続けていては、将来的にかなり苦戦する未来が見えていました。そこで、リファラルという手法にも工夫が必要だと感じ、取り組み始めました。
―― 将来を見据えた人員計画の中での判断だったのですね。
岩崎: そうですね。「202X年までにこの人数を達成しよう」という計画を3年後、5年後まで定めています。今後、採用に注力していくことは確定していたので、リファラルを失速させるわけにはいかないという危機感がありました。
―― 採用課題はコストやマッチング精度など多岐にわたりますが、「リファラルなら解決できる」という確信は、やはりご自身の体験が大きかったのでしょうか?
岩崎: おっしゃる通りです。応募からの内定率など、採用の通過率を見ていると明らかにリファラルが高い状況でした。エージェント経由だと、紹介数は多くてもなかなか採用に至らないケースも多く、その差は数字として顕著に出ていました。
社員が紹介してくれる信頼性や、社員のリアルな声を聞いて入社してくれるためミスマッチが少なく、入社後すぐに即戦力として活躍していただける方が非常に多い。会社にとっても候補者にとっても、リファラルは良い手法だと強く感じていました。

noteと全社会を活用した情報発信
―― 採用ペースを落とさないために、どのような工夫をされたのでしょうか? 「リファラル」という言葉が社内に深く浸透している印象ですが、文化形成で意識された点はありますか?
岩崎: 人事が独り歩きして自己満足になってしまうのは避けたいと強く思っていました。そこで、まずは社内の皆さんがどう思っているのか、浸透させるために何が必要なのかをアンケートでヒアリングしました。
その結果、「リファラルの制度を正しく認識できていない」「実際に会社が今求めているポジションや応募要件が分からない」といった声が上がったため、まずは基本情報の周知を徹底することから始めました。
ただ、それだけでは浸透させるには足りないと感じ、加田木さんに相談しました。「リファラルを推進していきたい」という想いを共有し、マーケティングと採用で連携して、リファラルで入社された方のインタビューをnoteで発信していくという取り組みをスタートさせました。
―― 発信はどのような頻度や場所で行っていたのですか? やはりSlackがメインでしょうか?
岩崎: Slackも活用していますが、それに加えて「KAGレビュー」という、週1回実施している社内の全体会を活用しています。この会では、各部署やチームから取り組みの共有や周知ができる場となっています。Slackだとどうしても流し見されてしまったり、見逃してしまう方もいるので、改めて資料を作成し、全社員が集まる場で共有する時間を設けたことは大きかったと思います。
普段の会話や近況報告の延長線上で。自然に関係性が続く中での紹介
―― noteを拝見すると、前職や前々職の同僚を紹介するケースが多い印象でした。社員の皆さんは日頃から長期的にアンテナを張られたり関係性構築に努めているのでしょうか?
岩崎: 私自身の経験で言うと、あまり「リファラル」を強く意識していたわけではありませんでした。ただ、今まで在籍した会社の人に恵まれていて、退職後も定期的に飲みに行ったりするメンバーが多かったんです。
仕事の話をする中で、お互いの近況報告になりますよね。私の場合は今の職場や業務に悩んでいて転職を考えていると聞いたので、「うちでこのポジションの募集があるよ」と軽く話したことから、リファラルに繋がりました。
以前から業務や社内の雰囲気などは話していたので、KAGに対してポジティブな印象を持ってくれていたことも大きいのかなと思います。
―― 「リファラルありき」ではなく、普段の会話の延長線上に自然と紹介が生まれているのですね。
岩崎: そうですね。インタビューをしていても、それはすごく感じました。
加田木: 会社全体の話でいうと、採用に対して協力的な社員が多いと感じています。僕も前職から人事をやっていますが、KAGの社員は「自分たちで会社を良くしていこう」という意識が高く、リファラルに限らず面談やインターンへの協力もすごく前向きです。
リファラルも、「人事からのお願いだからやる」ではなく、「会社を良くするためにやろう!」という前向きな判断で協力してくれています。
また、会社としてイベント登壇やコミュニティ活動など社外に出ていく取り組みを推奨しているため、他社のエンジニアとの接点が自然と増えます。 結果として、自社のポジションや採用市場の難しさを理解している社員が多く、必要なときに紹介が生まれやすい土壌ができているのだと思います。
参照:KDDIアジャイル開発センターのnote記事「リファラル採用されてみたら、思っていたより幸せだった話。」

リファラルが担保する、アジャイル開発に不可欠なカルチャー
―― 設立当初から土壌が整っていたのですね。やはりカルチャーの力が大きいのでしょうか。
加田木: KAGには「楽しくやる」というカルチャーがあります。ただ、これは自由に好き勝手にやるという意味ではありません。チームとしての約束や成果にきちんと責任を持ったうえで、主体的に工夫して前に進める、というニュアンスだと個人的には理解しています。そういう共通認識があるのは大きいですね。
そうした共通認識に加えて、アジャイル開発という手法そのものも影響していると思います。チームでプロジェクトを進める以上、一人ひとりに自律性が求められます。誰かが止まるとチーム全体が止まってしまう。だからこそ、チームで高め合いながら進める姿勢が当たり前になる。その感覚がチームから会社全体へと広がっているのではないでしょうか。
そして何より、そのカルチャーを守るために、採用チームが採用基準を高く保ち、丁寧に対話を重視した選考を進めていることが大きいと思います。人数が増えてもカルチャーが崩れずに維持できているのは、本当に採用チームのみなさんのおかげですね。
―― エンジニア採用という激戦区でのリファラル推進、一番の壁や苦労は何でしたか?
岩崎: すぐには成果につながらない点ですね。リファラルは一撃で効果を生むものではないと分かってはいたものの、成果につながるまでにこれほど時間がかかるのかと痛感しましたし、それは今後も感じていくことだと思います。
今年度は9名の入社が決まっていますが、まだ目標には達していない状況です。リファラルだからといって採用基準を下げることはなく、他の応募の方と全く同じ目線で選考を行うので、どうしても不採用になる方もいらっしゃいます。
不採用時のフォローや、ご紹介いただいた方へのフィードバックは人事が特に心がけている部分です。今は、キャリア採用だけでなく、新卒採用におけるリファラル強化にも着手し始めています。
―― エンジニア採用となると、「即戦力を採用してほしい」という声の方が強いのではないでしょうか?
岩崎: もちろん、会社としてキャリア採用に注力し続ける方針は変わりません。ただ、新卒のリファラルももっと増やせる余地があると感じています。マーケやエンジニアのみなさんのおかげもあって、会社の認知度はかなり上がってきていますし、卒業生がいるおかげで大学側と連携がしやすい状況になってきています。なのでしっかりと開拓していきたい領域です。
―― 定量的な数字以外で、社内の変化や手応えを感じる瞬間はありますか?
岩崎: 私の感覚ですが、「こういう方がいるんですけど、リファラル対象になりますか?」といった個別のお問い合わせをいただく機会が増えました。
以前は「誰に相談したらいいのか分からない」という状況があったのかもしれません。「これを聞くのもな…」と躊躇していた方もいたと思いますが、聞いていただければ「ぜひ紹介してください!」となることがほとんどです。相談のハードルが下がっただけでも、大きな前進だと感じています。
―― 「誰に聞けばいいか分からない」というボトルネックが解消されたわけですね。
加田木: インタビュー企画を始めたのも、岩崎さんが実施したアンケート結果からの仮説があったからです。「自然と紹介につながる人もいる一方で、やりたくないわけではないのに、迷いや不安で一歩目が踏み出せない“もやっとしている層”がいるのではないか」と。誰に相談していいか分からない、紹介していいのか自信がない、といった理由で一歩踏み出せない人たちです。
その人たちの背中を押せるコンテンツがあれば、紹介のハードルを下げられるかもしれない。実際に一度リファラルを経験して「意外と大丈夫だった」と感じることができれば、次の紹介にもつながりやすくなります。だからこそ、入社者がどんな経緯で紹介に至ったのかを知ってもらい、最初の一歩を踏み出すきっかけをつくる。そうした仮説が、少しずつ形になってきたのだと思います。

採用チームもリファラルで入社した、リファラル連鎖の現場
―― 特に印象に残っているリファラルエピソードはありますか?
加田木: 印象的なのは、紹介の段階で会社のことがかなり深く伝わっているケースが多いことですね。紹介者からしっかり話を聞いたうえで、自分のキャリアや大事にしているものと照らし合わせ、「ここならマッチする」と確信を持って応募してくださる。結果として、入社後のギャップが少ないと感じることも多いです。
―― それはすごいですね。「とりあえず聞いてみなよ」という軽いパスで人事に来るというよりは、人事に来る手前で、候補者に会社の魅力が伝わり、志望度がすでに高まっているということですよね。
岩崎: おっしゃる通りです。ご自身で魅力を感じて応募していただくケースが圧倒的に多いですね。紹介者からしっかりと話を聞き、自分のキャリアや大事にしているものと照らし合わせ、「ここならマッチする」と確信を持って応募してくださっています。
―― 自社の解像度がものすごく高いんだなと思いました。そして、解像度が高くても、相手のことを真剣に考えられないとそこまで深い話にはなりません。本当に素晴らしい方が集まっている組織なんだなと率直に感じました。
岩崎: ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。
加田木: あと印象的なのは、採用チームの多くがリファラルで入社していることですね。採用に関わる立場だからこそ、紹介するにも入社するにも「本当に自信を持って勧められるか」は大事だと思っています。
採用担当自身が「うちの会社はいいよ」と心から言えているという事実は、それだけで会社の魅力を伝える強い材料になっている気がします。
―― 間違いありません。説得力が違いますね。
岩崎: 現在、採用チームは3人体制なのですが、1人目が私を紹介してくれて、私が3人目を紹介して…という形でリファラルでつながっています。
―― まさにリファラルの連鎖ですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。
岩崎: 会社全体で採用していく文化が根付いているのが当社の強みだと思っているので、それを人事としてさらに推進していきたいです。
日々痛感していますが、人事だけで採用はできません。現在はマーケチームと二人三脚で進めていますが、この輪を全社に広げ、新しく入社される方にも文化に共感し、協力していただける環境を作っていきたいですね。
加田木: アジャイル開発のコミュニティはつながりが強く、他社との接点も多いので、リファラル採用との相性はとても良いと思っています。理想は、人事が強く旗を振らなくても、社員同士のつながりから継続的に紹介が生まれる状態です。
先ほどもお話ししたとおり、一度紹介を経験すると心理的ハードルは下がります。その「最初の一回」を少しずつ増やしながら、中長期的にはリファラル比率を50%程度まで高めていくことを目指したいですね。
―― 頼もしい目標ですね。同じように悩んでいる人事の方へ、一言エールをいただけますか。
岩崎: 一人で抱え込んだら、結構しんどいと思います。自分だけが発信して、周りがついてこない状況は孤独になりがちです。私も他の方に甘えて進めているので、周りに協力を仰ぐこと。それは自分のためでもあり、会社のためでもあると思います。
加田木: 私も人事・採用の経験があるので、人事が一人でリファラルを推進する難しさはよく分かります。だからこそ、まずは一人でもいいので味方をつくって、チームで取り組んでほしいですね。
実際に岩崎さんが私に協力を求めてくれたときは、素直に嬉しかったです。社内には「協力したい」と思っている人も必ずいるはずなので、人事の方はぜひ声をかけてみてください。逆に協力したい側の方も、ぜひ勇気を出して自分から手を挙げてほしいです。
―― 「周りを巻き込む勇気を持つ」ということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!
岩崎: はい、まずはそこからだと思います!ありがとうございました。
加田木: ありがとうございました。

取材後記
「こんなに整っている組織があるのか」というのが取材後に率直に感じたことです。まだ自然に紹介が生まれている段階で、将来の停滞を見越して先手を打つ。その解像度の高さは、推進者自身がリファラル入社である強みだと感じました。奇抜な施策があるわけではありません。和気藹々としたインタビューの中で語ってくださったのは、全社会での地道な周知や質の高い発信をやり続ける「凡事徹底」と、カルチャーを守るために「選考基準は一切緩めない」という潔さ。自律した社員と、それを支えるブレない人事。この両輪が噛み合っていることこそが、同社の強さの根源なのだと実感しました。
