ボトムアップで、社員や経営陣の意識までも変革したリファラル採用
当インタビューは、「社員にとって紹介したい会社作り」「本質的な採用における取り組み」を積極的に行う企業様を表彰対象とした「Referral Recruiting AWARD 2018」の受賞企業様への取り組みをお聞きするシリーズです。
日常生活に密着したWebサービス、インターネットやスマートフォンをベースとしたゲームコンテンツやECサイトなどの企画・開発・運営を行うエイチーム様。3年前から本格的にリファラル採用を開始し、社員や経営陣の意識にも大きな変化があったといいます。試行錯誤を繰り返す中でたどり着いたリファラル採用の本質を捉えた取り組みについて、社長室人材開発グループの安藤様にお話を伺いました。
リファラル採用が次のリファラル採用を呼ぶ
___御社では2010年頃から紹介採用や謝礼金制度などの取り組みを行っていたそうですが、本格的にリファラル採用を始めたきっかけは?
リファラル採用を強化したタイミングで、今までの中途採用の採用決定経路の分析をしてみたところ、リファラル採用で入った社員は会社へのロイヤリティが高い人が多く、“リファラル採用がまた次のリファラル採用を呼ぶ”という循環があることに気付いたんです。経営理念や会社の目指す姿を体現している社員は、意識しなくても自然とリファラル採用につながる行動をしているというファクトがありました。
企業体を強くしていくためには、やはり社員一人一人が経営理念をきちんと理解し、サービスの価値提供をする中でそれを体現していかなければなりません。リファラル採用を通じて、そういう部分にも良い影響があるのではないかと考えたのがきっかけです。
___リファラル採用を本格的に開始するにあたって、まずは経営陣と合意を取り、そこから現場に落とし込んでいったのでしょうか。
そうですね。合意を取ったといっても、リファラル採用については経営陣からトップダウンで下りてきたわけではなく、人材開発グループからボトムアップした施策です。弊社の経営陣は、何かを始めるときは上から命令するよりも社員の声を吸い上げた方がうまく進むのではないかという考え方なので、今回も「みんなで良いと思うものをやってみたら?」というスタンスでした。
___リファラル採用を本格的に始めてから、何か変化はありましたか?
大きな変化が三つありました。まず一つ目は、社員の意識が変わったことです。リファラル採用は応募してもらうまでのスパンが長いですが、以前はそれをフォローする施策や受け皿がなく、社員がどれくらいリファラル活動をしているか把握できていない状態でした。
そこからいろいろな活動をした結果、今は「友達にこういう子がいるので、今アプローチしています」「会社に興味があるようなのでオフィスを案内してもいいですか?」といった報告が入るようになり、人事に面談の協力を求める声が増えてきました。応募の量や頻度も増え、社員の協力率は13、14%くらいまで上がっています。
___数字としても結果が出ているということですね。二つ目の変化はいかがですか?
経営陣の意識も変わったと思います。以前はリファラル採用に関する話題が出ることは少なかったのですが、本格的に活動を始めてからは「リファラル採用は人事だけがやるものではなく、みんなでやるものだ」という意識が芽生えてきたようです。
つまり、エイチームの社員という誇りを持って社外でコミュニケーションを取ることで、その人が会社の顔となり、会社のブランドにもつながっていく。「社員一人一人が採用に関わっている意識を持とう」という話が出るようになりました。
___それはすごいですね。三つ目の変化はどうでしたか。
面接官の意識が変わったことも大きいです。リファラル経由の候補者は明確な応募意思を持っていない場合もありますが、面接官にとっては応募意思がない人と会うことに最初は抵抗があったようです。面談方法がわからないし、工数がかかるのではないかと。
ただ社員紹介経由で興味を持ってくれたということは、彼らは非常にコアな弊社のファンでもあります。なので、採用に直結しない可能性もあるけれども、とにかく会って弊社の情報提供をしてほしいと伝えました。
そこから少しずつ意識が変わり、リファラル経由の候補者には弊社にネガティブな印象を与えないよう、より丁寧に対応してくれるようになりました。紹介してくれた社員にも「あの子、よかったよ」と話しかけるなど、社員同士のコミュニケーションが増えるきっかけにもなっています。
___社員・経営陣・面接官と、三つの切り口で変化が現れているということですね。面接官のスキルも上がったのでは?
確実に上がりましたね。リファラル以外の採用にも良い変化があったと思います。
候補者を通じて社員の「エイチーム愛」を知るのが楽しい
___これまでに取り組んだ施策の中で、一番大変だったのは?
部署によってリファラル採用の優先度が違うので、共通意識を持ってもらうことが大変でした。協力的な部署もあれば、「採用に直結しないし、時間もかかるし…」と消極的な部署もあって、反応には差がありましたね。
そこで、リファラル採用は採用することだけが目的ではないということを最初に伝えました。インターナルコミュニケーションとして、組織を作っていく上で非常に効果のある制度なんだと。
___それはどういう機会に伝えていったのですか?
各事業部に採用担当者がいるので、リファラル採用のキャンペーンを手伝ったり、役員陣へのプレゼンを一緒に考えたりする中で、まずは彼らに伝えていきました。
プレゼンするにしても、リファラル採用は方法論だけでいくとまず通らないんですよ。短期的な母集団形成は求人媒体を利用した方が確実なので、その意義を伝えるには「どういう組織を作りたいのか」という“なりたい姿”から語らないといけない。何より、それが私だけでなく彼ら自身の口からも語れるようにならないと、伝承されていかないですからね。
___いつの間にか採用担当者の教育も行っていたという感じですね。そういった苦労を乗り越える上で、モチベーションになっていたものは?
単純に面白いんですよね。リファラル採用が次のリファラル採用を呼ぶと話しましたが、候補者を通じて紹介してくれた社員の人となりや人間関係が見えてくるんです。特にエイチームのことをどう聞いていたか候補者に尋ねると、「良い会社だと言っていて興味が湧いた」という話が聞けることもあって、社員のエイチーム愛を感じられるのがうれしいです。
あとは「あの子から聞いたけど、実はこういう趣味があるんだって?」「えっ、そんなこと言ったんですか!?」という会話も楽しい(笑)。社員とコミュニケーションするネタも増えましたね。
___意識の変化とは別に、数字の変化も定期的に追っているのでしょうか?
そうですね。ただ紹介率は年々増えているのですが、数字に関してはネガティブなところもあって。というのも年々の社員数の増加率と、紹介率の増加率がほぼイコールなので、施策の効果というよりは自然増なのかなと。本当はもっと倍々で増やしていきたいと思っています。
___今後はそういった数字を上げるのも目標の一つということですね。 今、安藤様ご自身が感じているミッションは?
個人的なミッションは、インターナルコミュニケーションとの連携強化です。例えば、紹介料を上げるといった外発的動機ではなく、内発的動機で動いてもらいたい。
そのためにリファラル採用の意義やメリットを伝えるにしても、人によって刺さり方が違うので、誰にどうやって伝えればうまく刺さるのかを考えながら社内広報していきたいです。今はメールや掲示物など一方的な手段だけですが、今後はもっと密にコミュニケーションを取りたいですね。
___リファラル採用に取り組む会社の中でもインターナルコミュニケーションという言葉が出てくるところはまだ少ないので、御社はすでに一歩先のフェーズにいらっしゃるなと感じました。
リファラルマーケティングによって社員一人一人が自社のインフルエンサーに
___今後、具体的にやりたいことはありますか?
今は人事から経営陣や各部署採用担当者に情報発信していますが、今後は社内にリファラル採用のプロジェクトを立ち上げることが目標です。一人一人が知見を持った有識者として、施策をさらにスケールアップできるようなインフルエンサーになってほしい。例えば、エンジニアのリファラル採用はAさんに相談、若手層の採用ならBさんに…と役割を分担して、チームでやっていける体制を作りたいです。
あとは、情報共有の方法も課題ですね。今は弊社の採用HPに募集要項を載せているのですが、採用HPの情報は古いというイメージがあるのか「これってまだ募集していますか?」という問い合わせがよく来るんです。なので、「今はどういう職種で何人募集している」と明確に伝えられるような情報共有の方法を検討中です。システムが増えすぎて社員の負担になるのは避けたいのですが、一年以内には何とかしたいと思っています。
___この記事を読まれる方にメッセージやアドバイスをお願いします!
これを読んでいる方をリファラル採用に取り組み始めた3年前の私と仮定してお伝えしますが、リファラル採用はとても面倒で大変です。周囲の協力も得づらいし、短期的な成果も見込めないし、何から手を付ければいいか分からずに悩むことも多い。
考えれば考えるほど課題や問題点も出てきますが、実はその一つ一つを解決していくと答えはすごくシンプルなんです。最適解を見つけていくことで、採用だけでなく組織や社員全体に与えられるような成果も出てきます。とにかく「苦しみながらも走れ!」という感じですね(笑)。
___やり続ければ良い成果も返ってくると。安藤様のご経験からして、そのフェーズにたどり着くにはどれくらいの期間が必要だと思いますか?
一番大変だったのは最初の一年でした。それこそ一枚の紙に課題や組織図、優先順位を書き出して、各事業部の人に話を聞いてはまた考えて…。それを繰り返すうちに、だんだん考え方がシンプルになっていったというか。
___0の状態から試行錯誤を経て、今は確実なものを掴んで次に進んでいるのでしょうか。
そうですね。実は悩んでいた時期にリファラル採用に関する本を一通り読んだのですが、なかなか本質を捉えることができなくて。そこで、リファラル採用の語源でもあるリファラル(口コミ)マーケティングの本を読むことにしました。
そもそも口コミはなぜ信頼度が高いのかという話から、友人関係が商品や企業の信頼性にも関わってくるという話になり…それを読んで、だからリファラル採用は信頼度が高い採用手法の一つなんだと腑に落ちたんです。そこからはリファラル採用という言葉にとらわれず、「採用においてリファラルマーケティングをやっている」という意識を持つようになりました。
___なるほど。採用の数字だけを追ってしまう方も多いですが、それだとなかなかリファラル採用はうまくいかないですよね。そこで、安藤様はリファラルマーケティングという本質から入っていったと。
リファラルマーケティングをやることによって、社員一人一人がエイチームのインフルエンサーになるんですよね。経営理念を理解した上で体現し、インターナルコミュニケーションを通じてさらに理解を深めていくことで、「エイチーム(で働く自分)はこういう考え方なんだ」という、企業と社員が一体化したマーケティングの発信力になっていきます。
リファラル採用というと単に紹介採用という言葉で片付けられがちですが、本質の目的は社員一人一人が自社の最大のファンかつインフルエンサーになり、それを伝えるメッセンジャーとして機能することで、結果的にリファラル採用という形につながっていく。そういう状況を目指すのが一番だと思っています。
___われわれが常に言いたいことを全て代弁してもらいました(笑)。 では、そのお考えは現時点で何%の社員に浸透していると思いますか?
全社員の20%くらいには浸透していたらいいなと思います。目指すべき目標へはまだまだですが、コツコツやっていきたいと思います。
___自分の頭で考えないと、なかなか納得するのは難しいですしね。 本日は貴重なお話、ありがとうございました!