職業安定法が定める報酬供与の禁止
職業安定法第40条では、労働者の募集に関して報酬を与えることを原則禁止しています。許可を得ていない者が職業紹介を事業として行い報酬を得ることを防ぐためです。リファラル採用の報奨では、これに該当すると判断されないよう注意が必要です。違反となった場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
では、どうすれば法律違反にならないのでしょうか。実はこの法律には例外があり、従業員に対して「賃金」として支払う場合は報酬供与の禁止に抵触しません。そして賃金として認めてもらうためには、就業規則への明記が必須条件となります。

労働基準法第6条の中間搾取の禁止への配慮
また、労働基準法第6条は他人の就業に介入して利益を得ることを禁じています。リファラル採用で従業員が紹介料を得る行為が、この中間搾取と見なされるリスクもあります。従業員が候補者の賃金の一部をピンハネするような構造は許されません。
そのため、報奨金の原資が会社の採用コストであり候補者の賃金とは無関係であることを明確にする必要があります。就業規則に報奨金の算出根拠を記載することで搾取ではないことを証明できます。
労働契約の内容としての明確化
就業規則に記載された内容は、会社と従業員間の労働契約の一部となります。支給条件が曖昧だと「紹介したのにもらえない」といったトラブルが発生します。会社側には条件を満たした従業員へ報奨金を支払う法的義務が生じるため、事前に不支給条件や支給時期を詳細に定めることで公平な運用が可能になります。透明性の高いルールを設計できれば、従業員の安心感と協力意欲を高める効果があります。
| 法律名 | 主な内容 | リファラル採用での対策 |
|---|---|---|
| 職業安定法第40条 | 報酬供与の禁止 | 報奨金を「賃金」として整理する |
| 労働基準法第6条 | 中間搾取の禁止 | 選考プロセスに紹介者を介入させない |
| 労働基準法第89条 | 就業規則の作成 | 支給条件・金額・時期を明文化する |
| 所得税法 | 源泉徴収義務 | 給与所得として所得税を徴収する |
リファラル採用規定に盛り込むべき必須項目と構成
リファラル採用の運用を円滑にするためには独立した「リファラル採用規定」を作成します。本則の就業規則とは別に定めることで柔軟な改定が可能になります。以下に実務で不可欠な構成要素を詳述します。
制度の目的と紹介者の定義
まず規定の冒頭には、制度を導入する趣旨を記載します。単なるコスト削減ではなく、「文化に合う人材の獲得」を目的とすることが重要です。
次に「誰が紹介できるのか」という対象者の範囲を明確にします。一般的に、正社員は対象に含みますが、契約社員やアルバイトを含めるかは検討が必要です。また、人事担当者や役員など選考に直接関与する者は対象外とするほうがトラブルを防止しやすくなります。
被紹介者の条件と除外設定
続いて、紹介の対象となる候補者の要件を定めます。既に自社に応募している人やエージェント経由の人は対象外とします。また、過去に応募歴がある人についても「過去6ヶ月以内は対象外」などの期限を設けると良いでしょう。他にも、親族の紹介を認めるかどうかはあらかじめ決めておく必要があります。
不適切な紹介を防ぐために「自社の採用基準を満たす実力があること」を明確にしましょう。
| 項目 | 具体的な内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 直接応募者 | 既に自社サイトから応募済みの者 | 重複支払いの防止 |
| エージェント経由 | 人材紹介会社から既に提案済みの者 | 手数料の二重発生を避ける |
| 短期再応募者 | 過去6ヶ月以内に不採用となった者 | 選考の公正性維持 |
| 選考関係者 | 採用の決定権を持つ上司や人事担当 | 利益相反の防止 |
| 退職予定者 | 支給日までに退職が決まっている紹介者 | 制度の趣旨(定着促進)に反する |
紹介の手続きと選考プロセス
次に、紹介者がどのように申請を行うかの手順を定めます。指定のフォームやリファラル採用ツールの利用がおすすめです。
重要な点は「候補者本人の同意」を必須とすることです。これは個人情報の取り扱いに関するトラブルを未然に防ぐためです。また、紹介であっても通常の選考フローを経て合否を判断することを強調します。
報奨金(インセンティブ)の設計と妥当な金額設定
報奨金の金額設定は、従業員のモチベーションを左右する重要な要素です。しかし法的な安全性を考慮すると極端な高額設定は避けなければなりません。ここからは、金額の相場と設計上の注意点を解説します。
業界別の報奨金相場と上限の考え方
一般的に、リファラル採用の報奨金は正社員採用の場合5〜20万円程度の範囲で設定されます。非正規採用の場合は5000円~1万円がボリュームゾーンです。しかし、エンジニアや医師など採用難易度が高い職種では金額を高く設定する傾向があります。
法律で決まった上限はありませんが、あまりに高額だと「事業」としての紹介と見なされるリスクが高まります。たとえ高額でも、エージェント手数料(年収の35%等)を超えないようにします。

分割支給と継続在籍条件のメリット
報奨金は入社時に全額支払うのではなく、分割して支給する方法が有効です。例えば入社時に一部を支払い、試用期間終了後に残りを支払うといった形式です。これにより、早期離職が発生した場合のリスクを軽減できます。条件として「支給日に紹介者と被紹介者の双方が在籍していること」を定めることで、従業員が新入社員をフォローする心理的なインセンティブにもなります。
金銭以外の報酬と「称賛」の文化づくり
金銭的な報奨金だけでなく、非金銭的なインセンティブも効果的です。食事代の補助や特別休暇の付与などが具体的な例です。また、不採用となった場合でも協力した行動自体を称賛する仕組みも重要です。食事など、不採用時のフォロー制度があることで紹介の心理的ハードルを下げることができます。
| 支給方式 | 具体例 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 一括支給 | 入社当月に全額支給 | 従業員の満足度が即座に高まる | 早期離職時のコストリスク大 |
| 分割支給 | 入社時5万、3ヶ月後15万 | 離職リスクの軽減と定着支援 | 事務手続きが複数回発生する |
| 段階支給 | 面談実施で5千、採用で10万 | 紹介の母数を増やしやすい | 質の低い紹介が増える懸念 |
| 非金銭報酬 | カフェチケット、特別休暇 | 税務処理が簡素、文化醸成 | 強い動機付けになりにくい |
関連記事:リファラル採用の報酬(インセンティブ)相場|決め方や報奨金以外の事例も紹介
2026年最新の法改正と実務上の注意点
労働法規は常に変化しており、リファラル採用の運用にも影響を及ぼします。予定されている法改正の内容を把握し、最新の基準に基づいた規定の更新が求められます。
障害者法定雇用率の引き上げへの対応
2026年7月より障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられます。対象となる企業規模も「従業員37.5人以上」へと厳格化されるため、リファラル採用を通じて障害者の紹介を促進する動きも活発化しています。たとえば、規定に障害者採用に関する特別なインセンティブを設ける企業も出ています。リファラル制度は、多様な人材を確保するための手段としても有効です。
勤務間インターバル制度と連続勤務の制限
2026年には勤務間インターバル制度の義務化などが議論されています。この場合、 従業員が休日に候補者と会食や連絡を行う行為が「労働時間」とみなされるリスクがあります。紹介活動はあくまで「任意」であり強制ではないことを規定に明記したり、業務時間外の過度な紹介活動を制限するガイドラインの策定が必要になります。従業員の健康管理を優先した制度設計が、持続可能な運用に繋がります。
個人情報保護と不適切な質問の禁止
採用選考における個人情報の取り扱いは年々厳しくなっています。2025年度からはインターンシップで取得した情報の活用ルールも明確化されました。リファラル採用の過程では、紹介者が候補者の機微な情報に触れることがあるため、規定には守秘義務条項を設け、退職後も適用されるようにしましょう。また、本籍などの差別につながる質問を禁止することを周知徹底します。
<図解指示:2025-2026年 労働法改正のタイムラインとリファラル採用への影響箇所>
リファラル採用規定の具体的条文サンプル(コピペ利用可)
実務でそのまま活用できるリファラル採用規定の雛形を提示します。自社の状況に合わせて適宜カスタマイズして利用してください。
第1条(目的)
本規定は、従業員の知人または友人の紹介による採用(以下「リファラル採用」という)を適正に運用することを目的とする。
従業員の個人的な信頼関係に基づき、当社の文化に共感する優秀な人材を確保する。
第2条(対象者)
本制度の対象となる紹介者は、当社に在籍する正社員とする。
ただし、以下の者は本制度の対象外とする。
- 役員および執行役員
- 人事部門に所属する社員
- 候補者の選考に関与する面接官
- 既に退職を届け出ている社員
第3条(紹介の手続き)
紹介者は、あらかじめ候補者本人の同意を得た上で、所定の申請フォームより人事部に報告するものとする。
人事部は申請を受理した後、通常の採用基準に基づき選考を行う。
紹介があったことをもって採用を確約するものではない。
第4条(紹介報奨金)
紹介された候補者が入社に至った場合、会社は紹介者に対し以下の通り報奨金を支給する。
- 金額:一律〇〇円(または職種別に定める金額)
- 支給時期:入社後〇ヶ月が経過した後の給与支払日
- 支給条件:支給日において紹介者および被紹介者が共に在籍していること
- 性質:本報奨金は労働基準法上の賃金とし、所得税を徴収する
第5条(禁止事項)
紹介者は、本制度の利用にあたり以下の行為を行ってはならない。
- 候補者に対し、労働条件について虚偽の説明をすること
- 候補者に対し、金銭その他の利益を授受または約束すること
- 強引な勧誘により当社の評判を損なうこと
- 会社の許可なく、SNSや媒体で広く募集をかけること
運用を成功させる3つのポイント
規定を作っただけで満足してはいけません。制度が従業員に使われ、実際に採用に結びついて初めて価値が出ます。成功のポイントをご紹介します。
制度の周知と「忘れられない」ためのコミュニケーション
実は、「制度の存在が忘れ去られること」はリファラル採用のよくある失敗理由の1つです。導入時の告知だけでなく、定期的な社内報や全社総会での共有を継続してください。「今月の重点募集ポジション」など、その時々のニーズを具体的に示すことで、従業員が友人を想起しやすくなります。他にも、ポスターやカードを物理的なオフィスに配置することも視覚的な刺激として有効です。単純接触効果を狙い、常に意識の片隅にリファラル採用がある状態を作っていきましょう。
紹介フローを極限まで簡素化
多忙な従業員は、少しでも紹介の手続きが面倒だと感じると協力してくれなくなります。履歴書の提出を最初から求めず、まずは名前と連絡先だけで応募できる仕組みを整えます。スマートフォンから数タップで紹介が完了する専用ツールの導入が効果的です。また、人事業務の負荷を軽減するためにもデータの自動管理は必須です。
成功事例の共有とロールモデルの創出
実際に紹介で入社した社員のインタビューを社内に公開します。「自分も紹介してみよう」と思わせるロールモデルを作ることが重要です。セールスフォースやfreeeなど、採用の半分をリファラルで賄う企業を見ると、報酬以外の「称賛文化」が徹底されています。紹介した人がヒーローになれるような表彰するなど、ポジティブな体験談が広まることで制度への信頼が深まります。
関連記事:リファラル採用の成功事例15選|大手や中小企業の導入実績を紹介
報奨金の税務・社会保険事務
報奨金を賃金として支払う以上、事務方は正確な処理を行う義務があります。税務調査や労働基準監督署の調査で指摘を受けないためにはどうしたらいいでしょうか。
給与所得としての源泉徴収と年末調整
リファラル報奨金は、給与明細に「紹介手当」等の名目で記載します。通常の給与と同様に所得税を計算し源泉徴収を行い、年末調整や住民税の決定にも反映させます。金券や現物支給であっても、その時価が課税対象となる点に注意が必要です。
社会保険料の算定基礎への算入
報奨金は社会保険上の「報酬」に該当します。支給回数が年3回以下の場合は「賞与」として扱い、賞与支払届を提出します。年4回以上の支給が見込まれる場合は、毎月の報酬に含めて算定します。算定基礎届や随時改定(月変)の対象となるかも毎月チェックしましょう。事務の煩雑さを避けるために、支給日を年数回に集約する運用も一つの手段です。
法を守り、文化を育てるリファラル採用へ
リファラル採用の就業規則の整備は、法的な安全網であると同時に制度の成功を支える基盤です。
法律や法改正をしっかり理解・設計して、効果的な運用を実現しましょう。
リファラル採用の設計に悩んでいる方は、こちらもご活用ください。報酬などの設計方法から、最新の成功事例、運用のコツを解説します。

